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政が乱れれば、文化もまた離れていく

音楽が乱れるとき、国もまた道を失う

かつて、魯の国には音楽を司る優れた楽師たちが多く仕えていた。
しかし政治が乱れ、道が失われたことにより、彼らは次々と国を離れ、各地に散っていった。

  • **大師の摯(し)**は斉へ。
  • **二度目の食事の楽を司る干(かん)**は楚へ。
  • **三度目の食事の楽を司る繚(りょう)**は蔡へ。
  • **四度目の食事の楽を司る缺(けつ)**は秦へ。
  • **鼓(つづみ)を打つ方叔(ほうしゅく)**は黄河へ身を寄せ、
  • **振り鼓を打つ武(ぶ)**は漢中へ姿を消した。
  • **副楽長の陽(よう)と、磬(けい)を打つ襄(じょう)**は、ついに海辺へと逃げ隠れた。

この記録は、ただ楽師たちの流浪を伝えているのではない。
音楽とは礼と同様に、国家の道徳と秩序を象徴するものである。
その音楽が崩れるということは、国の徳が乱れ、政治がすでに正道から外れている証である。
孔子はこの状況を深く嘆き、文化と道徳の衰退を憂いたと考えられる。


「大師(たいし)摯(し)は斉(せい)に適(ゆ)き、亞飯(あはん)干(かん)は楚(そ)に適き、三飯(さんはん)繚(りょう)は蔡(さい)に適き、四飯(しはん)缺(けつ)は秦(しん)に適き、鼓(こ)方叔(ほうしゅく)は河(か)に入り、播鼗(はとう)武(ぶ)は漢(かん)に入り、少師(しょうし)陽(よう)、撃磬(げきけい)襄(じょう)は海(うみ)に入る。」

音楽が去るとき、そこにはもう礼も義も残っていない。


語句注釈

  • 大師(たいし):音楽の最高責任者。摯はその長。
  • 亞飯・三飯・四飯:君主の二度、三度、四度目の食事に演奏を担う楽師たち。儀礼的な重要性を持つ。
  • 鼓(こ)・播鼗(はとう):それぞれつづみと振りつづみを演奏する役目。
  • 少師(しょうし):大師を補佐する役。副指揮者的存在。
  • 磬(けい):石製の打楽器。礼楽において重要な役割を果たす。
  • 入る(いる):逃げ込む・身を寄せる・隠れるなどの意。

パーマリンク(スラッグ)案

  • when-music-leaves-so-does-morality(音楽が去れば徳も去る)
  • politics-fails-culture-falls(政が乱れれば文化も崩れる)
  • scattered-music-scattered-values(楽の離散は徳の離散)

この一節は、文化の担い手が国を離れていく姿を通じて、「徳なき政治」の行き着く果てを静かに描いています。
音楽は単なる娯楽ではなく、国の礼と徳の象徴――それが乱れることは、国家そのものの崩壊を意味しているのです。

1. 原文

大師摯適齊、亞飯干適楚、三飯繚適蔡、四飯缺適秦、鼓方叔入於河、播鼗武入於漢、少師陽、擊磬襄入於海。


2. 書き下し文

大師(たいし)摯(し)は斉(せい)に適(ゆ)き、亞飯干(あはんかん)は楚(そ)に適き、三飯繚(さんぱんりょう)は蔡(さい)に適き、四飯缺(しはんけつ)は秦(しん)に適き、鼓(こ)の方叔(ほうしゅく)は河(か)に入り、播鼗(はとう)の武(ぶ)は漢(かん)に入り、少師(しょうし)の陽(よう)と磬(けい)を撃(う)つ襄(じょう)は海に入る。


3. 現代語訳(逐語・一文ずつ)

  • 「大師摯は斉に適き」
     → 宮廷音楽の指導者であった摯は、斉国に行った。
  • 「亞飯干は楚に適き」
     → 亞飯干という楽人は、楚国に移った。
  • 「三飯繚は蔡に適き」
     → 三飯繚という楽人は、蔡国に赴いた。
  • 「四飯缺は秦に適き」
     → 四飯缺という楽人は、秦国に移った。
  • 「鼓の方叔は河に入り」
     → 鼓を打つ役の方叔は、黄河流域の国に行った。
  • 「播鼗の武は漢に入り」
     → 小鼓(鼗)を演奏する武は、漢水流域の国に移った。
  • 「少師の陽、磬を打つ襄は海に入る」
     → 少師(副楽長)の陽と、石でできた楽器(磬)を打つ襄は、東方の海沿いの国へと去った。

4. 用語解説

  • 大師(たいし):宮廷音楽の最高責任者。礼楽制度における要職。
  • 亞飯干・三飯繚・四飯缺:いずれも音楽に従事していた官人、または演奏家。階級を表す名称との説あり。
  • 鼓・播鼗(はとう):鼓=太鼓、鼗=小太鼓や鈴のような楽器で、拍子を取るために用いられる。
  • 少師(しょうし):副楽長。大師の下位に位置するが、重要な役職。
  • 磬(けい):石を打って音を出す伝統楽器。儀礼や祭祀で使われた。
  • “適く”・“入る”:どちらも「仕える」「赴く」の意で、他国へ移ることを指す。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

かつての宮廷音楽家たちは、次々と他国へと去っていった。
大師摯は斉へ、亞飯干は楚へ、三飯繚は蔡へ、四飯缺は秦へと仕えに出た。
鼓の奏者・方叔は黄河流域の国へ、播鼗の武は漢水流域へ、
そして少師陽と磬を奏でる襄は、さらに遠く東方の海辺の国へと姿を消した。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、一見するとただの人事異動や転職のように見えますが、実は**「礼楽制度の崩壊」と文化の流出**という重大な問題を象徴しています。

  • 孔子の理想とする礼楽(礼儀と音楽)は、国家道徳の根幹とされていました。
  • しかし、道が乱れた国家では、礼楽も保たれず、人材流出=文化の崩壊が進む。
  • 高位の楽人たちが他国へ次々に流出していく様子は、孔子にとって深い憂慮の対象であり、礼楽制度の衰退と国家の倫理の崩壊を暗示しているのです。

7. ビジネスにおける解釈と適用

「専門人材の流出は、組織文化の危機」

  • 制度の崩壊は、優秀な人材から去っていく
     → 礼楽の担い手が次々と去る状況は、現代企業でいえば「理念や仕組みが崩れ、プロフェッショナルが離職していく」状態。
  • 文化や理念を守ることの重要性
     → 礼楽が乱れた国では統治も乱れる。これは「企業理念が実行されない組織は崩壊する」ことと通じる。
  • 音楽=礼=組織の“リズム”
     → 音楽家は、礼の象徴であり、組織の“呼吸”や“秩序”を整える存在。彼らの流出は組織のリズムの喪失を意味する。

人材マネジメントへの教訓

  • 理念・制度の形骸化は、文化を支える人から離れていく
  • 報酬や待遇ではなく、信念と役割が人をつなぎとめる
  • 礼(儀礼)=社風、音楽(楽)=組織文化。これらを整えることが人材の定着につながる

8. ビジネス用の心得タイトル

「文化は人で成り立つ──理念なき組織に、人は留まらない」


この章句は、古代の楽人たちの動静を通じて、文化・制度・信頼の崩壊が人材流出を引き起こすという、現代にも通じる根本的な教訓を伝えています。

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