孔子は、言葉巧みに人に取り入り、作り笑いで愛想よく振る舞う者を厳しく戒める。
そのような人物に、仁(じん)――すなわち思いやりと誠実さをもつ人間は、ほとんどいないという。
「巧言(こうげん)」とは、耳ざわりのいい言葉で人の心をつかもうとすること。
「令色(れいしょく)」とは、顔色をつくろい、表面だけを良く見せようとすること。
そうした振る舞いは、一見人当たりがよく見えるが、内面には信と誠が伴っていないことが多い。
孔子が理想とした「仁の人」とは、誠実な行動と内面の厚みを持ち、真心を尽くす人物。
口先や愛想だけで好印象を与えようとする者は、その本質から遠い存在である。
子(し)曰(のたま)わく、巧言(こうげん)・令色(れいしょく)には鮮(すく)なし仁(じん)。
現代語訳:
孔子は言った。「言葉巧みに取り入り、顔色をつくろうような者には、真の思いやり(仁)を持つ者はほとんどいない」。
注釈:
- 巧言(こうげん):巧みに飾った言葉。お世辞やごまかしも含む。
- 令色(れいしょく):相手によく見せようとする作り笑いや表情の操作。
- 鮮(すく)なし:ほとんどいない、ごくわずかである。
- 仁(じん):思いやり、誠実さ、真心。孔子が最も重視した人格の徳。
※この句は第3話(003)「口がうまく、見た目のよい者に仁は少ない」と重複しており、繰り返し語られるほど、孔子の思想の中でも核心的な警句であることがわかる。
原文:
子曰、巧言令色、鮮矣仁。
書き下し文:
子(し)曰(い)わく、
「巧言(こうげん)・令色(れいしょく)には、仁(じん)鮮(すく)なし。」
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 孔子は言った。
- 「口先だけの巧みな言葉や、にこやかな顔つきばかりを取り繕う者には、仁(思いやり・誠実さ)はほとんどないものである。」
用語解説:
- 巧言(こうげん):耳障りのよい言葉・お世辞・巧みな弁舌。中身より言い回しが優先される表面的な言葉。
- 令色(れいしょく):人に気に入られるための作り笑い・愛想のよい表情。誠意のない態度のこと。
- 鮮(すくなし):めったにない、ほとんどない。
- 仁(じん):孔子が最重視した徳目の一つ。思いやり・誠実・道義心など人間性の根幹。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「口先だけうまくて、笑顔だけ取り繕うような人間に、ほんとうの思いやりや誠実さ(仁)は、ほとんど存在しない。」
解釈と現代的意義:
この章句は、「言葉と表情の虚飾」を警戒し、内面の誠実さ(仁)を重んじる孔子の姿勢を象徴しています。
- 「話がうまい」「印象がいい」といった評価は、時として本質から目をそらさせる。
- 真の人格者は、口先ではなく行動と中身で信頼される。
- 儒教において「仁」は中心的な徳であり、人間として最も重要なのは、言葉の巧拙ではなく“真心”であるという教えです。
ビジネスにおける解釈と適用:
「話術と愛想だけの人物に気を許すな」
- プレゼンがうまい、印象がいい──それ自体は価値があるが、中身が伴わなければ危険。
- 面談や商談でも、“本質”より“巧みさ”で判断すると、信頼を損なうリスクがある。
「リーダーは“誠実”によって人を導け」
- 話術や態度で場をまとめるのではなく、誠実な言行と責任感が人を動かす。
- “取り繕うスキル”より、“真に配慮し行動する力”を持った人が、長く信頼される。
「“誠”は信頼構築の最大資産」
- 顧客との関係、社員間の信頼、どれも“言葉ではなく行動”で築かれる。
- 自分をよく見せようとするあまり、誠実さを欠く行動は、かえって信頼を損なう。
ビジネス用心得タイトル:
「言葉より誠、笑顔より信念──“中身で信頼される人”になれ」
この章句は、現代社会の“印象重視”や“外面偏重”への警告として、今なお大きな示唆を与えます。
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