孔子は、人から聞いた話を深く考えることなく、そのまま次の相手に語るだけの人間を強く戒めた。
「道すがら聴いて、道すがら語る」とは、自分の頭と心を通さず、情報をただ横流しにする態度のこと。
それは、知識や教えを咀嚼せず、実行にも生かさず、ただ話題として使って終わりにすることに他ならない。
孔子はそのような態度を、「徳を棄てる行為」――つまり、自ら人格を高める機会を捨てることだと断言する。
学びとは、聞いたことを内面化し、実行してこそ意味がある。
ただの情報流通では、徳も人格も育たない。
目次
原文
子曰、聽而塗說、德之棄也。
書き下し文
子(し)曰(い)わく、聴(き)きて塗(みち)に説(と)くは、徳(とく)を之(これ)棄(す)つるなり。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 孔子は言った。
- 「(道で)聞きかじったことを、また道端で言いふらすのは、まさに“徳”を捨てる行為である。」
用語解説
- 聽(きく):聞くこと。特に、軽々しく耳にした情報を指す。
- 塗說(とせつ):道すがら話す=聞いたそばから言いふらす、噂話をすること。
- 徳(とく):人格的な美徳、節操、信頼を構成する倫理的な力。
- 棄つ(すつ):捨てる、放棄すること。
全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「人づてに聞いた話を、道端で軽々しく言いふらすような者は、自分の“徳”を自ら捨てているようなものだ。」
解釈と現代的意義
この章句は、軽率な言動が自分の人格や信頼を損なうことを厳しく戒めています。
- 世間話・ゴシップ・噂話──その多くは、正確でないばかりか、他人を傷つけ、自分の信用を損なう原因になる。
- 孔子は、「情報の扱い方」=話す内容の選別・沈黙の徳を、人格形成の核心と見なしていました。
ビジネスにおける解釈と適用
「軽はずみな発言は“信用の損失”」
- 会議で聞いたことを外で軽々しく話す、他部署の事情を面白半分に言う──これらは情報漏洩と同じく、信頼を棄てる行為。
- 信用される人物は、“話すべきでないことを話さない”力を持つ。
「噂話は組織の徳を蝕む」
- 職場の人間関係における“陰口”や“裏情報”の拡散は、チームの信頼と心理的安全性を崩壊させる。
- 誠実な沈黙が、組織文化の質を高める。
「情報の取り扱いには“品格”が問われる」
- 経営・人事・開発に関わる内容を扱う人ほど、聞いたことより“守るべきこと”を意識せよ。
- 話すことで自分を満たすのではなく、守ることで信頼を築く。
まとめ
「沈黙は信頼、軽口は信用を捨てる──“語るべきこと”を選べる人であれ」
この章句は、「聞く力」だけでなく「話す節度」こそが人の徳を決めるという深い倫理を教えてくれます。
コメント