孔子は、**一見まじめで人当たりの良い「評判のいい人」**に対して、
安易に信用するべきではないと厳しく戒めた。
「郷原(きょうげん)」――それは、どの土地でも「善い人」と言われ、
誰にでも調子を合わせ、角を立てずに人気を得るが、信念や原則がない人物を指す。
表面上は謹厳実直に見えるが、実際は事なかれ主義に徹し、
真の正義や徳を貫こうとする者を妨げる存在なのだ。
孔子はそんな「郷原」を、なんと**“徳の賊(てき)”=徳を盗む者**とまで呼んでいる。
これは、偽善が真の善よりも害が大きいことを意味している。
子(し)曰(のたま)わく、郷原(きょうげん)は徳(とく)の賊(てき)なり。
現代語訳:
孔子は言った。「どこに行っても善人と評されるような人物――郷原というのは、
実は徳を損なう“偽善者”であり、真の善の邪魔をする者である」。
注釈:
- 郷原(きょうげん):郷里で評判の良い人、一見まじめで温厚だが、実は信念をもたない八方美人。時には迎合的で、波風を立てないことを最優先にする。
- 徳の賊(とくのてき):真の徳を貶める者。偽善者の行動が、徳を目指す者の足を引っ張ることを示している。
原文:
子曰、鄕原德之賊也。
書き下し文:
子(し)曰(い)わく、郷原(きょうげん)は徳(とく)の賊(ぞく)なり。
現代語訳(逐語):
- 孔子は言った。
- 「郷原(世間で評判のよい“良識人”)は、徳を損なう害悪である。」
用語解説:
- 郷原(きょうげん):郷(村里)の中で“いい人”と評判の者。表面的には温厚で調和的に振る舞うが、内実としては節操がなく、迎合的・八方美人な人物。
- 徳(とく):儒家における人格的な徳目。仁・義・礼・智などに代表される“本質的な道徳性”。
- 賊(ぞく):害する者、損なうもの。ここでは“徳を破壊する者”という意味。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「世間で“いい人”と評判の郷原のような人物は、かえって徳を損なう害悪である。」
解釈と現代的意義:
この章句は、**「本当の善と、見せかけの“良さ”」**の違いを鋭く突いた孔子の警句です。
- 郷原は、波風を立てず、誰にでも良い顔をし、非難されないよう立ち回る。
- しかし、正義が問われる場面でも沈黙し、真の善を貫く勇気がない。
- 孔子は、そのような“八方美人”を、「徳の敵」「社会を堕落させる存在」と断じています。
つまり、「外面の“無難さ”は、内面の“節義の放棄”」につながるという思想です。
ビジネスにおける解釈と適用:
「“良い人”が必ずしも“良い社員”ではない」
- 誰にでもいい顔をし、場を穏やかに保つだけの社員は、危機や不正に直面したときに沈黙する。
- 組織の倫理や正義を守るには、真に正しいことを言える勇気ある人材が不可欠。
「忖度文化・同調圧力に潜む危機」
- 表面的な和を重視するあまり、内部の課題を見て見ぬふりする組織風土は、長期的に“徳”を損なう。
- “郷原的な人物”が評価される文化は、改革や挑戦の芽を摘み取る。
「真に信頼されるのは、“不都合な真実”を語る人」
- 時には反対意見を言う勇気、課題を直視する姿勢、現実を変えようとする意志──それが本当の“徳ある行動”。
- 評判を気にするのではなく、誠実さと信念に基づく判断が求められる。
ビジネス用心得タイトル:
「八方美人は信頼を損なう──“沈黙の善人”が組織を腐らせる」
この章句は、「無難さより、信念ある行動」を重んじる孔子の厳しい倫理観を端的に表したものです。
企業倫理・リーダーシップ・社内風土の見直しにおいて非常に示唆に富む内容です。
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