孔子は、謀叛を起こした公山弗擾(こうざんふつじょう)に招かれたとき、行くことを決意する。
これに対し弟子の子路は、「そんな者のもとへ行くべきではない」と反対した。
だが孔子は答える――「私を招く以上、そこには覚悟があるはずだ。もし私を本当に用いてくれるなら、私はこの魯の国に、かつての周の理想を再興したいのだ」と。
孔子の行動は、人物の善悪を問う前に「志を果たす機会」に目を向けた姿勢を示している。
理想を掲げるだけでなく、それを実行する意志と勇気を持つこと。それが君子の姿である。
公山弗擾(こうざんふつじょう)、費(ひ)を以(も)って畔(そむ)き、子(し)を召(まね)く。子、往(ゆ)かんと欲す。
子路(しろ)、説(よろこ)ばずして曰(い)く、「之(ゆ)かざらんのみ。何(なん)ぞ必ずしも公山氏の之(これ)に之(ゆ)かんや」。
子曰(しのたま)わく、「夫(そ)れ我(われ)を召(まね)く者は、豈(あ)に徒(いたずら)ならんや。如(も)し我を用(もち)うる者有(あ)らば、吾(われ)は其(そ)れ東周(とうしゅう)と為(な)さんか」。
現代語訳:
公山弗擾が謀反を起こして孔子を招いた。孔子は行く気になったが、子路は「そんなところに行く必要はない」と止めた。
それに対して孔子は、「私を招くというのは、何か志があってのことだろう。もし本気で私を用いる者がいるなら、私は魯の国を昔の周王朝のように盛んにしてみせる」と答えた。
注釈:
- 公山弗擾(こうざんふつじょう):季氏の家老で、費の地を治めていた。後に反乱を起こす。
- 費(ひ):魯の国に属する地方の名。
- 畔(そむ)く:反旗を翻す。謀反を起こすこと。
- 東周と為さん(とうしゅうとなさん):周王朝の理想を、今の地で再び実現させようという志。
原文:
公山弗擾以費畔、召子。子欲往。子路不説曰、末之也已、何必公山氏之之也。子曰、夫召我者、而豈徒哉。如有用我者、吾其為東周乎。
書き下し文:
公山弗擾(こうざんふつじょう)、費(ひ)を以て畔(そむ)き、子(し)を召(まね)く。子、往(ゆ)かんと欲す。
子路(しろ)、説(よろこ)ばずして曰(い)わく、「之(ゆ)かざらんのみ。何ぞ必ずしも公山氏に之(ゆ)かんや」。
子(し)曰(い)わく、「夫(そ)れ我を召(まね)く者は、豈(あ)に徒(いたず)らならんや。
如(も)し我を用(もち)うる者有らば、吾(われ)は其(そ)れ東周(とうしゅう)と為(な)さんか」。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 公山弗擾は費の地で反乱を起こしながら、孔子を招いた。
- 孔子はその招きに応じようとした。
- 子路は不満を示し、「行かなければよいだけだ。なぜ、わざわざ公山のような者のもとに行こうとするのですか」と言った。
- 孔子は答えた。「私を招こうとしている者が、ただの思いつきでそんなことをするだろうか?
もし私を本気で起用するつもりがあるのなら、私はこの地を“東の周(=理想の国)”にするだろう。」
用語解説:
- 公山弗擾(こうざんふつじょう):魯の反逆者。孔子の弟子である子貢の兄弟弟子とされる人物。
- 費(ひ):魯の地方都市。公山弗擾が拠点とした。
- 畔(そむ)く:反乱を起こす。国家に対し反旗を翻すこと。
- 召す(まねく):人を呼び寄せる。招聘すること。
- 子路(しろ):孔子の高弟で、武勇と忠誠を重んじた人物。
- 説ばず(よろこばず):納得しない、反対する。
- 徒(いたずら)ならんや:無意味なことがあるだろうか(反語表現)。
- 東周(とうしゅう):周の理想政治を意味し、古代中国での礼楽が正しく行われていた時代への憧憬を含む理想郷の意。
全体の現代語訳(まとめ):
公山弗擾という人物が、魯の国の費という地で反乱を起こしつつ、孔子を招いた。
孔子は彼の招きに応じようとしたが、弟子の子路は不満を示して言った。
「行かなければいいじゃないですか。なぜあえて反逆者のところに行く必要があるんですか?」
それに対し、孔子はこう答えた:
「私を招こうとしている者が、本気でないわけがあるだろうか。
もし私を本気で登用しようという者が現れるのなら、私はその地を“東の周”、つまり理想の国にしてみせる。」
解釈と現代的意義:
この章句は、理想と現実のギャップを乗り越えて、志を社会に役立てる姿勢を示しています。
- 孔子は反逆者からの招きであっても、「善政を実現できる可能性」がある限り、それに応じる覚悟があった。
- 子路の忠義的な視点(危険を避ける、忠義を守る)に対して、孔子はより広いビジョンと責任感を持って対応しています。
- **「相手の過去より、現在と未来の可能性に賭ける」**という、リーダーとしての勇気と信念が現れています。
ビジネスにおける解釈と適用:
「チャンスは“誰”から来るかではなく、“何”を成せるかで判断する」
- 過去に問題があった相手であっても、今の志やビジョンに共感できるなら、協業を検討する価値がある。
- 経歴や評判だけで判断せず、本質を見極める力がリーダーに求められる。
「反対意見を持つ部下を無視せず、ビジョンで納得させよ」
- 子路のように忠義や正義感から反対する部下を、孔子は正面から論理で説得した。
- 上司は「聞く耳」と「志を語る力」の両方を持たなければならない。
「理想を語るだけでなく、実現する覚悟があるか」
- 「東周と為さん」という言葉に見られるように、孔子は理想論者ではなく、実践者でもあった。
- ビジョンを掲げたら、実現のために“どんな場にも身を投じる”覚悟が必要。
ビジネス用心得タイトル:
「誰が呼ぶかより、何を成すか──理想を語る者は、行動でも示せ」
この章句は、真のリーダーシップとは「過去の評価や立場に囚われず、未来を切り開くこと」だと教えてくれます。
現代の組織改革・スタートアップ支援・社内異動・プロジェクト引き受けなど、様々な局面に通じる普遍的な教訓です。
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