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君子の品格は「九つの思い」から生まれる

君子――すなわち人格者は、常に自らの行いに意識的である。
孔子は、君子が心がけるべき「九つの思考」を挙げ、その日常的な姿勢の大切さを説いた。

それは特別な力ではなく、見て・聞いて・語り・動くという、日々のあらゆる所作の中に現れる。
慎みと誠実、そして義を重んじる心。
一つひとつの態度に、「思うべきこと」があるのだ。

君子とは、完璧な人ではない。
常に思いを忘れず、自分を律しようと努める人のことである。


【原文引用(ふりがな付き)】

「孔子(こうし)曰(い)わく、君子(くんし)に九(ここの)つの思(おも)い有(あ)り。視(み)るには明(めい)を思い、聴(き)くには聡(そう)を思い、色(いろ)には温(おん)を思い、貌(かたち)には恭(きょう)を思い、言(ことば)には忠(ちゅう)を思い、事(こと)には敬(けい)を思い、疑(うたが)いには問(と)いを思い、忿(いか)りには難(なん)を思い、得(え)るを見(み)ては義(ぎ)を思う。」


【現代語訳・主旨】

君子が常に心がけるべき「九つの思い」とは:

  1. 見るときは、よく見て明らかにしようと思う(視思明)
  2. 聞くときは、正しく聴き取ろうと思う(聽思聰)
  3. 顔つきは、常に温和で穏やかに保とうと思う(色思温)
  4. 外見・立ち居振る舞いは、慎み深く恭しくあろうと思う(貌思恭)
  5. 言葉は、誠実で偽りがないようにと思う(言思忠)
  6. 仕事や行動には、集中し丁寧に取り組もうと思う(事思敬)
  7. 疑問を持ったら、必ず人に尋ねようと思う(疑思問)
  8. 怒りを感じた時には、後の困難を思って慎もうと思う(忿思難)
  9. 利益を目前にした時は、それが義に適うかを第一に思う(見得思義)

【注釈】

  • 「視思明(ししめい)」:表面だけでなく、よく観察し、本質を見ようとする態度。
  • 「聽思聰(ちょうしそう)」:一方的に聞くのではなく、偏らず、広く深く耳を傾けること。
  • 「色思温(しきしおん)」:表情は人との関係をつくる第一歩。穏やかであることが人徳の基盤。
  • 「貌思恭(ぼうしきょう)」:外見・態度にも敬意がにじむように。傲慢さを慎むこと。
  • 「言思忠(げんしちゅう)」:言葉は誠実でなければならない。虚飾やごまかしを戒める。
  • 「事思敬(じしけい)」:すべての行動に集中と丁寧さを込める。敬意ある仕事は信頼を生む。
  • 「疑思問(ぎしもん)」:知らないことを恥じず、問うことを怠らない姿勢。
  • 「忿思難(ふんしなん)」:怒りは一時的だが、結果は長く残る。後悔する前に一歩引く。
  • 「見得思義(けんとくしぎ)」:目の前の利益よりも、道義にかなうかどうかを優先する。

原文:

孔子曰、君子有九思。
視思明、聽思聰、色思溫、貌思恭、言思忠、事思敬、疑思問、忿思難、見得思義。


目次

書き下し文:

孔子(こうし)曰(いわ)く、君子(くんし)に九つの思(おも)い有り。
視(み)るには明(めい)を思い、聴(き)くには聡(そう)を思い、色(いろ)には温(おん)を思い、貌(かたち)には恭(きょう)を思い、言(げん)には忠(ちゅう)を思い、事(こと)には敬(けい)を思い、疑(うたが)いには問(と)いを思い、忿(いか)りには難(なん)を思い、得(とく)を見るには義(ぎ)を思う。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  1. 孔子は言った。
  2. 「君子(徳ある人物)には九つの考えるべきことがある。」
  3. 「目で見るときは、はっきりと見ることを考える。」
  4. 「耳で聞くときは、よく聴き取ることを考える。」
  5. 「表情は、温かく穏やかであることを考える。」
  6. 「外見や姿勢は、礼儀正しくあることを考える。」
  7. 「言葉を発するときは、誠実で真心があることを考える。」
  8. 「仕事や物事に取り組むときは、敬意と慎重さを考える。」
  9. 「疑問に思うときは、率直に質問することを考える。」
  10. 「怒りが湧いたときは、結果や後難を考える。」
  11. 「利益を目にしたときは、正義を考える。」

用語解説:

  • 視思明(ししめい):「見るときは明晰に」──物事の真相をよく見極めよ。
  • 聽思聰(ちょうしそう):「聴くときは耳を澄ませよ」──先入観なく情報を正確に聞く姿勢。
  • 色思溫(しきしおん):「表情は温和であれ」──柔和で人を安心させる態度。
  • 貌思恭(ぼうしきょう):「姿勢・態度は礼儀正しく」──見た目からも敬意を伝える。
  • 言思忠(げんしちゅう):「言葉には誠実さを」──真心と責任を持って発言せよ。
  • 事思敬(じしけい):「仕事には敬意と真剣さを」──慎重かつ真摯な行動。
  • 疑思問(ぎしもん):「疑問はそのままにせず、尋ねよ」──無知のままにせず学ぶ姿勢。
  • 忿思難(ふんしなん):「怒りを感じたら、結果を考えよ」──感情に流されず理性を保つ。
  • 見得思義(けんとくしぎ):「利益を見たら正義を思え」──欲望に負けず、道理を貫け。

全体の現代語訳(まとめ):

孔子はこう語った:
「徳を備えた君子は、日々の行動において九つの点を深く考えるべきである。
物事を見るときは明晰に、聞くときはよく聴き、表情には温かみを持ち、外見や姿勢は恭しくあれ。
言葉には誠実さを持ち、物事には敬意を持ってあたり、疑問があれば尋ね、怒りを感じたときはその結果を想像し、利益を目にしたときは正義を優先する。
このように、常に“思いを添えた行動”をすることが、君子のあるべき姿である。」


解釈と現代的意義:

この章句は、“外に見える態度と内にある思考”を一致させることの大切さを説いています。

  • 行動は、思慮と自制によって磨かれる。
  • 誠実・礼儀・正義という価値観を、具体的な生活態度や振る舞いに落とし込むことが重要。
  • そのためには、日々の“意識する習慣”が必要であり、「考えてから動く」という姿勢こそが君子の基礎。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「“聞いてない”“見てない”は、思考不足の表れ」

報連相のミスや誤解は、「見抜く力」「聴く力」が不足している証。思考を伴う観察・傾聴が信頼を築く。

2. 「表情・態度・言葉に“温かみと敬意”を宿せ」

リーダーシップに必要なのは“威圧”ではなく“温かさと品格”。部下や顧客は「どう言ったか」「どんな顔だったか」をよく見ている。

3. 「感情に流されるな、利益に溺れるな」

怒りや欲望に支配された判断は、後悔と信頼の喪失を招く。
“見得思義”──目の前の利益より、長期的な正しさと信念を選ぶべし。


ビジネス用の心得タイトル:

「“思ってから動く”──九つの思いが、信頼される人をつくる」


この章句は、「考える人間こそが信頼され、長く尊敬される」という普遍的真理を語っています。


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