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政(まつりごと)の筋を正さねば、国は乱れる

孔子は、政治の正統性がどこから発するかに厳しい目を向けた。
本来、礼(れい)や楽(がく)といった文化政策、また征伐(せいばつ)のような軍事行動は、天下の中心である天子(てんし)――つまり最上位の統治者から始まるべきだと説いた。

しかし世が乱れ、道(みち=正しい秩序)が失われると、その命令が下位の諸侯、大夫、さらにはその家来たちから出るようになる。筋を無視した統治は、世代を経るごとに国を傾ける。
本来、政治は庶民の手にあるものではなく、大夫が担うものでもない。
秩序が保たれ、為政者が道にかなった政治をしていれば、民衆が熱心に批判や議論を交わす必要などない――孔子は、こうした自然で静かな政治のあり方を理想とした。


【原文引用(ふりがな付き)】

「天下(てんか)に道(みち)有(あ)れば、則(すなわ)ち礼楽征伐(れいがくせいばつ)、天子(てんし)自(よ)り出(い)づ。天下に道無(な)ければ、則ち礼楽征伐、諸侯(しょこう)自り出づ。諸侯自り出づれば、蓋(けだ)し十世(じっせい)にして失(うしな)わざること希(まれ)なり。大夫(たいふ)自り出づれば、五世にして失わざること希なり。陪臣(ばいしん)国命(こくめい)を執(と)れば、三世にして失わざること希なり。天下に道有れば、則ち政(まつりごと)は大夫に在(あ)らず。天下に道有れば、則ち庶人(しょじん)議(ぎ)せず。」


【現代語訳・主旨】

天下に道があれば、文化も戦も、すべては最上位の統治者=天子から始まる。
その筋が通らず、下の立場の者が政治の中心になると、やがて乱れは避けられない。
庶民が政治に声を上げすぎるのも、為政者が信頼されていない証拠。
筋を正し、秩序ある統治がなされるとき、社会には自然な静けさと安定が戻る。


【注釈】

  • 「礼楽(れいがく)」:礼は制度・儀礼、楽は音楽や教養を含む文化政策。
  • 「征伐(せいばつ)」:戦争や武力行使を含む軍事権限。
  • 「天子(てんし)」:古代中国で最上位の王(周の王など)を指す。
  • 「諸侯(しょこう)」:天子に仕える地方の有力者(領主)。
  • 「大夫(たいふ)」:諸侯に仕える高官。
  • 「陪臣(ばいしん)」:大夫のさらに下に仕える者。つまり陪臣→大夫→諸侯→天子という上下関係。
  • 「庶人(しょじん)」:一般庶民のこと。道があれば、彼らは政治を議論しない=安定しているという意味。

原文:

孔子曰、天下有道、則禮樂征伐自天子出。
天下無道、則禮樂征伐自諸侯出。
自諸侯出、蓋十世希不失矣。
自大夫出、五世希不失矣。
陪臣執國命、三世希不失矣。
天下有道、則政不在大夫。
天下有道、則庶人不議。


目次

書き下し文:

孔子曰く、天下に道あれば、則ち礼楽征伐、天子より出づ。
天下に道なければ、則ち礼楽征伐、諸侯より出づ。
諸侯より出づれば、蓋し十世にして失わざるは稀なり。
大夫より出づれば、五世にして失わざるは稀なり。
陪臣、国命を執れば、三世にして失わざるは稀なり。
天下に道あれば、則ち政は大夫に在らず。
天下に道あれば、則ち庶人は議せず。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳):

  1. 孔子は言った:
  2. 「天下に道(正しい秩序)があれば、礼儀・音楽・戦争の決定は、すべて天子(最高権力者)から発される。
  3. だが天下に道がなければ、それらは諸侯(地方の領主)から出される。
  4. 諸侯がそのようにすれば、10代続いても失脚しないことはまれである。
  5. 大夫(諸侯に仕える家臣)から出るようになれば、5代続いても稀である。
  6. 陪臣(さらにその家臣、家来の家来)が国政を担えば、3代持てば珍しい。
  7. 天下に道があれば、政治は大夫の手にはなく、
  8. 天下に道があれば、庶民は政治について議論しない。」

用語解説:

  • 天下に道有り/無し(てんかにみちあり/なし):政治や社会秩序が正しく保たれている/乱れている状態。
  • 礼楽(れいがく):礼=社会制度・秩序、楽=文化・精神面の調和を司る制度。政治の基盤。
  • 征伐(せいばつ):軍事行動、戦争の決定権。
  • 天子(てんし):古代中国の最高権力者、王朝の皇帝。
  • 諸侯(しょこう):天子に仕える地方領主。
  • 大夫(たいふ):諸侯に仕える家臣。
  • 陪臣(ばいしん):家来の家来。正式な権限を持たない者。
  • 庶人(しょじん):一般庶民。政治に参与する立場ではない者。

全体の現代語訳(まとめ):

孔子はこう言った。
「社会が正しい道にあるときは、礼儀や音楽、戦争といった政治の根幹は天子(君主)から発せられる。
だが、道が乱れてくると、その決定は地方の諸侯から出るようになる。
そうなれば、10代も続けてその地位を保てることはまれだ。
さらに、その下の大夫が決定を下すようになれば、5代続くことも難しい。
家来の家来が国を動かすようになれば、3代もてば稀である。
正しい道があるときは、政治は家臣の手に渡ることはなく、庶民も政治を論じる必要がない。」


解釈と現代的意義:

この章句は、「正当な権威と統治の原則」がどのように崩れていくか、そしてその結果としての秩序の瓦解を、段階的に描いたものです。

  • 上の者が役割を果たさず、下の者が越権して仕切るようになると、組織は短命になる。
  • 組織や国家が安定しているときは、役割分担が明確であり、末端や一般市民が政治を論じる必要もない。
  • 逆に、庶民が政治を論じざるを得ない状況は、支配層が責任を果たしていない証左である。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「組織に“道”があれば、責任は上から始まる」

健全な企業では、戦略・意思決定・制度設計は経営層から行われるべき。
現場任せや“下からの責任転嫁”が常態化する組織は、必ず弱体化する。

2. 「越権と無秩序は組織を蝕む」

担当レベルや中間管理職が、経営判断を代行するようになると、長期的に持たない。
権限の源泉があいまいになると、責任の所在も不明確になる。

3. 「トップが無策なら、末端が騒ぎ出す」

経営層の沈黙・放置により、社員や一般スタッフが経営の方針を口にし始める。
それは健全な提言ではなく、組織の危機の表れ。現場の“政治化”は、上層部の無為を映す鏡。


ビジネス用の心得タイトル:

「秩序は上から崩れる──“正しい道”なき組織に未来はない」


この章句は、正統なリーダーシップの重要性と、組織の崩壊プロセスを示す非常に重要な教訓です。
組織設計・役職ごとの責任設計・トップマネジメントのリーダーシップ教育に活用可能な内容です。


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