—— 君子の関心は「どう生きるか」であり、「どう食うか」ではない
孔子は、学ぶ目的と人生の優先順位についてこう語りました。
「君子が熱心に求めるのは“道”であって、“食”ではない。
たとえ農業に精を出しても、飢える時は飢える。
しかし学問に励めば、俸禄はその中に自然と含まれてくるものだ。
だから君子は、“道が得られるか”を憂うべきで、“貧しさ”を憂えるものではない」と。
食べること、暮らしていくことは確かに大事だが、
それにとらわれてしまうと、本当に大切な“どう生きるか”を見失う。
学びを深めて人間としての道を得ていれば、
必要な生業や報酬は後からついてくる——孔子の言葉は、現代のキャリア形成にも響きます。
この章句は、人生の根本的な目的と姿勢のあり方を静かに、しかし力強く教えてくれます。
「どう生きるか」に集中する人は、結果的に「どう食うか」でも道を得る。
その逆は、しばしば道を失うのです。
原文
子曰、君子謀道、不謀食。
耕也、餒在其中矣。
學也、祿在其中矣。
君子憂道、不憂貧。
書き下し文
子(し)曰(いわ)く、君子(くんし)は道(みち)を謀(はか)りて、食(しょく)を謀らず。
耕(たがや)すも、餒(う)うこと其の中に在(あ)り。
学(まな)べば、祿(ろく)其の中に在り。
君子は道を憂(うれ)えて、貧(まず)しきを憂えず。
現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「君子は道を謀りて、食を謀らず」
→ 君子(人格ある立派な人)は、正しい道(道義)を追求し、食うこと(金銭的な利益)には心を煩わせない。 - 「耕すも、餒うこと其の中に在り」
→ 農業をしても、飢えることはある(労働しても生活が安定するとは限らない)。 - 「学べば、禄その中に在り」
→ だが学問を修めれば、しかるべき報酬(禄)は自然とついてくる。 - 「君子は道を憂えて、貧しきを憂えず」
→ 君子は自分が正しく生きているかを気にかけ、貧しさそのものは気にしない。
用語解説
- 君子(くんし):徳と教養を備えた理想的人格者。
- 謀(はかる):計画する、心を砕く、目指す。
- 道(みち):道義・倫理・人生の正道。孔子の思想においては最高価値。
- 餒(うう):飢える。食うに困る。
- 祿(ろく):公的な俸禄や報酬。生活を支える収入。
- 憂える:気に病む、心配する。
全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「君子は“どう生きるか(道)”を大切にし、“どう食うか(生活)”にばかり心を砕かない。
農業をしていても、飢えることはある。
だが学問を修めれば、きちんとした収入は得られる。
君子は、正しい道を歩めているかを憂い、貧しさそのものは気にしないのだ」。
解釈と現代的意義
この章句は、**「志と行動の優先順位」**を説いた孔子の哲学です。
■ ◆「生き方(道)>暮らし(食)」という価値観
- 優先すべきは“どう生きるか”、つまり道義・信念・人格の追求である。
- 金銭的な利益は、結果としてついてくるべきものであり、それ自体を目的とするのではない。
■ ◆「学びと人格の追求が報酬をもたらす」
- 単なる労働(耕)では成果が保証されない。
しかし知識・学問・人格を高める努力は、やがて自然に報酬を伴う。
■ ◆「貧しさよりも“志のなさ”を恐れよ」
- 真の君子は、生活の貧しさよりも、自分の信じる“道”を見失うことをこそ憂う。
ビジネスにおける解釈と適用
◆ 「目先の利益ではなく、“使命”を追え」
本当に価値ある仕事・事業とは、金銭的成果よりも社会的意義・信念の実現に根差している。
◆ 「やるべき仕事か、儲かる仕事か──判断軸の再点検を」
利益を得ることに執着する前に、**その仕事は“道”に適っているか?**と問い直すべき。
◆ 「学びと人格形成こそ、長期的報酬の源泉」
短期の儲けよりも、人としての成長・知の蓄積が、持続的な信頼と成果につながる。
◆ 「志ある人材を支援する文化づくりを」
組織としても、「食(目先の利益)」ではなく、**「道(使命・信念)」を重視する人材を評価・支援する風土を醸成すべき。
まとめ
「“食”より“道”──志を追えば、報酬はあとからついてくる」
この章句は、ビジネスにおいても人生においても、「何を第一義に据えるか」という価値判断の原点を問いかけてきます。
経営理念の再確認、ミッションドリブンな組織構築、若手人材への志教育などにおいて、非常に有効な考え方です。
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