――君子の道は、内なる修養から始まり、やがて天下を安んずる
弟子の**子路(しろ)**が、孔子に「君子とはどういう人物ですか」と問いかけました。
孔子はまずこう答えます。
「己(おのれ)を修(おさ)めて、以(もっ)て敬(けい)す。
つまり、自分自身を日々磨き、慎みの心で誠実に生きる人のことだ。」
子路は少し物足りなさを感じて再度尋ねます。
「それだけでいいのですか?」
孔子はこう続けます。
「己を修めて、以て人を安んず。
自分が誠実に修養を積んでいれば、まわりの人も感化されてよくなっていく。」
それでも納得がいかない子路に対して、孔子はもう一段階、こう高めて言います。
「己を修めて、以て百姓(ひゃくせい)を安んず。
自らを高めることで、国全体――つまり人民の幸福につながる。
だがそれを本当に実現するのは、**堯(ぎょう)や舜(しゅん)**のような聖王ですら難しかったのだ。」
原文とふりがな付き引用:
「子路(しろ)、君子(くんし)を問う。
子(し)曰(い)わく、
己(おのれ)を修(おさ)めて以(もっ)て敬(けい)す。
曰く、斯(か)くの如(ごと)きのみか。
曰く、
己を修めて以て人を安んず。
曰く、斯くの如きのみか。
曰く、
己を修めて以て百姓(ひゃくせい)を安んず。
己を修めて以て百姓を安んずるは、堯舜(ぎょうしゅん)もそれ猶(なお)諸(これ)を病(や)めり。」
注釈:
- 修己(しゅうき) … 自らの行いや人格を日々磨き続けること。孔子の根本理念。
- 敬(けい) … 敬意を持って自律的に行動する態度。
- 人を安んず … 自分の周囲の人々に安心・安定・善影響を与える。
- 百姓(ひゃくせい) … 国の全人民。天下国家を意味する。
- 堯舜(ぎょうしゅん) … 古代中国の理想的聖王。仁徳と治世の完成者とされる。
- 病む(やむ) … 困難に感じる。成し遂げるのが難しい。
教訓:
この章句は、**「世界を変えるには、まず自分から」**という、
極めて普遍的かつ実践的な人生の指針を示しています。
- 立派な人物(君子)とは、口で語る者ではなく、自分を律し、日々を正しく生きる者。
- その姿は、やがてまわりの人々に影響を与え、世の中を少しずつよくしていく。
- しかし「天下を安んずる」ほどの徳を持つのは至難の業であり、理想を抱きつつも、自らの一歩を確実に歩めと孔子は教えます。
1. 原文
子路問君子。子曰、脩己以敬。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安人。曰、如斯而已乎。曰、脩己以安百姓。脩己以安百姓、堯舜其猶病諸。
2. 書き下し文
子路(しろ)、君子(くんし)を問う。
子(し)曰(いわ)く、己(おのれ)を脩(おさ)めて以(もっ)て敬(けい)す。
曰く、斯(か)くの如きのみか。
曰く、己を脩めて以て人を安(やす)んず。
曰く、斯くの如きのみか。
曰く、己を脩めて以て百姓(ひゃくせい)を安んず。
己を脩めて以て百姓を安んずるは、堯舜(ぎょうしゅん)も其(それ)猶(なお)諸(これ)を病(うれ)えたり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「子路が“君子とは何か”を尋ねた」
→ 子路:「君子(理想の人物)とはどうあるべきですか?」
「孔子は答えた:己を修め、礼をもって慎み深くあれ」
→ 自分自身を律し、慎みの心をもって生きることが、君子の第一歩。
「子路:それだけですか?」
「孔子:己を修めて、他人を安心させられるようでなければならない」
「子路:それだけですか?」
「孔子:己を修めて、民(百姓)を安らかにすることができるようでなければならない」
「だがこの“己を修めて民を安んずる”ことは、堯・舜のような聖人でさえ、なお苦しみ悩んだことだ」
4. 用語解説
- 子路(しろ):孔子の弟子。豪放で行動的な性格。実践的な問いを多く投げかける人物。
- 君子(くんし):人格者。徳を備えた理想的人間。
- 脩己(しゅうき):自己修養。自らの品性・態度・行動を正すこと。
- 敬(けい)す:敬意をもって慎む。姿勢や態度に表れる徳。
- 安人/安百姓:人々、さらには民全体に安心と安定をもたらすこと。
- 堯舜(ぎょうしゅん):古代中国の理想の聖王。統治と徳の象徴。
- 病む(うれう):ここでは「心を悩ませる」「難しいと感じる」という意味。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
子路が孔子に尋ねた:
「君子とはどうあるべきでしょうか?」
孔子は答えた:
「まずは、自分を修め、敬意ある振る舞いをすることだ。」
子路:「それだけですか?」
孔子:「さらに、自分を修めて、他人に安心と影響を与えるようになることだ。」
子路:「それだけですか?」
孔子:「最終的には、自らを修養して、民全体を安んじることができなければならない。
だがそれは、聖王・堯や舜でさえ苦悩したほど、至難の業である。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「リーダーの成長段階とその到達点」**を示しています。
- 自己修養(敬):まずは自分を律する。
- 対人影響(安人):周囲の人に安定と信頼を与える。
- 社会貢献(安百姓):社会全体を導き安んじる力を持つ。
しかしこの最終段階は、聖人ですら難しかったという言葉に、
孔子の現実認識と慎み深い理想主義が表れています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「リーダーの成長は“自分を整える”ことから始まる」
- 規律、礼儀、自己管理の徹底が、信頼の前提。
- 敬をもって行動することが、部下やチームに安心感を与える。
✅「他者を安心させる存在になって初めて、組織を導ける」
- 自分の態度・姿勢が、職場に与える影響を意識せよ。
- 真のリーダーは、「一緒にいるだけで落ち着く」と思われる存在。
✅「社会全体を安んじる影響力を持つ者こそ、真の“経営者”」
- 組織や市場に広く貢献できる存在になるには、不断の修養と責任感が不可欠。
- 孔子の言葉を借りれば、それは**“堯舜のような理想”**だが、そこを目指すことに意味がある。
8. ビジネス用の心得タイトル
「己を修めて人を安んず──“聖人未満”の志が真のリーダーを育てる」
この章句は、“自己修養から社会への影響へ”という成長のスパイラルを明確に描いています。
“他者や組織を変えたいなら、まず自分を整えよ”
それでも“完璧は目指せど届かぬもの”という謙虚な理想主義こそ、君子の本質です。
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