――理想が遠くても、信じた道を歩み続ける覚悟
ある夜、弟子の**子路(しろ)は帰国が遅れ、魯の都城外にある石門(せきもん)で一夜を明かしました。
翌朝、門を通る際に門番(しんもん)**が尋ねます。
「どこから来たのですか?」
子路はまっすぐに答えます。
「孔子(こうし)先生のところからです。」
すると門番は、ややあきれたようにこう言いました。
「ああ、**“できない”とわかっていながら、それでもやろうとしている人”**ですか。」
本質:
門番の言葉には、孔子の理想主義を**「現実離れした非効率な努力」と見る冷笑**が込められています。
しかしそこには、**それでもやり続ける孔子の「信念の重さ」**がはっきりと映っています。
この章句には、孔子の有名な思想の一つ:
「知其不可而為之(その不可なるを知りて、之を為す)」
――つまり、
「成しえないと知りながら、それでもやる」
という理想主義者の覚悟と美学がにじみ出ています。
原文とふりがな付き引用:
「子路(しろ)、石門(せきもん)に宿す。
晨門(しんもん)曰(い)わく、奚(いず)れより自(きた)るや。
子路曰く、孔子(こうし)自りす。
曰く、是(こ)れ其(そ)の不可(ふか)なるを知りて、之(これ)を為(な)さんとする者か。」
注釈:
- 晨門(しんもん) … 「晨(あさ)」に門を開く役職=城門の門番。
- 不可を知りて為す … うまくいかないとわかっていても、諦めずにやる。
- 孔子の理想 … 名分の正しさ、礼の秩序、仁政など、時代にはそぐわないが普遍的な理想。
教訓:
この章句は、理想に対する揶揄や諦観に負けずに信じる道を貫く、孔子と弟子たちの「強さ」を示しています。
- 結果の確実性より、志の正しさを重視する。
- 「無理だ」「意味がない」と言われても、黙ってやる。
- 周囲の評価や成果に左右されず、“為す価値”のあることを、ただ実行する。
それが、本当の勇気であり、君子の姿であると孔子は語っているのです。
1. 原文
子路宿於石門。晨門曰、奚自。子路曰、自孔氏。曰、是知其不可而爲之者與。
2. 書き下し文
子路(しろ)、石門(せきもん)に宿(しゅく)す。
晨門(しんもん)曰(い)わく、「奚(いず)こより来(きた)るや。」
子路曰く、「孔氏より来たる。」
曰く、「是(こ)れ其(そ)の不可なるを知りて、之(これ)を為(な)さんとする者か。」
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「子路は石門に泊まった」
→ 孔子の弟子・子路が、ある町の門(関所)=石門で宿泊を求めた。
「門番が尋ねた:どこから来たのか?」
→ 門を守る者(晨門)が言った。「どこから来たのか?」
「子路が答えた:孔子のもとから来た」
「門番が言った:ああ、あの“できないとわかっていても、それでもやろうとする人”か」
→ 「その人は、実現が不可能だと知りながら、それでも理想を貫こうとする人なのだな?」
4. 用語解説
- 石門(せきもん):地名。関所のような場所とも解される。
- 晨門(しんもん):門番、関守。夜明けに門を開閉する者。
- 奚自(いずこよりきたる):どこから来たのか。
- 自孔氏(こうしよりきたる):孔子のもとから来た。
- 是知其不可而爲之者與(しかれどもこれをなさんとするものか):それができないと知っていながら、なお行おうとする者なのか?
5. 全体の現代語訳(まとめ)
子路が石門という町に宿を求めてやって来た。
門番が尋ねた:「どこから来たのか?」
子路は答えた:「孔子のところからだ。」
すると門番は言った:
「ああ、あの“できないとわかっていても、それでも行おうとする”先生のところか。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**孔子の生き方=“理想に殉じる姿勢”**を、第三者がどう見ていたかを示す貴重な記録です。
- 門番の言葉には、尊敬ともあきれとも取れるニュアンスがある。
- 孔子は理想の実現が極めて困難であることを知っていながらも、それを行動で貫こうとする人物だった。
- これは「理想主義と現実主義の衝突」ではなく、“志”のあり方そのものを問う言葉でもある。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「達成困難でも、やるべきことはやる」──理念を貫く姿勢
- 新規事業、社会貢献、組織改革など、実現困難なテーマにこそ“やる価値”がある。
- 孔子の姿勢は、「無理だ」と言われても挑戦する**“信念型リーダー”**のモデル。
✅「理解されなくても、正しいと信じる道を進め」
- 門番のように、外部からは「無駄な努力」と映ることもある。
- それでも、“志に生きること”そのものが人生の価値であり、リーダーシップの本質でもある。
✅「理想を笑う者はいても、理想を目指す者が時代を変える」
- “できるかどうか”ではなく、“やるべきかどうか”を基準に動ける人が、未来をつくる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「できぬと知って、なお行う──理想に生きる者こそ、真の挑戦者」
この章句は、成功するかどうかよりも、
「やるべきことをやる」という態度そのものに価値があるという、
孔子の人生哲学を他者の口を通して描いた印象的なエピソードです。
評価されず、理解もされないことがあっても──
“志に従って行動する”ことが人の尊さである。
それが孔子の、そして君子の精神です。
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