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運命を責めず、人を責めず、自らを磨き続ける

――評価されずとも腐らず、黙々と進む者の徳

ある日、孔子は弟子たちに向かって、少し寂しげにこう述べました。

我(われ)を知るもの、莫(な)きかな。
(私の本当の価値を理解してくれる者はいないようだ)」

これを聞いた弟子の**子貢(しこう)**が驚いて尋ねます。

どうして先生を知る者がいないなどということがありましょうか。

孔子はこう応じました。

私を政に用いようという君主がいなかった、それだけのことだ。
だが私は、

  • 天を怨(うら)まず
  • 人を尤(とが)めず
  • 下学して上達す(したがくしてじょうたつす)
     ――つまり、身近な学びを積み重ね、次第に高い領域に至ってきた。
    そんな私を知っているのは、だけであろうな。」

本質:

この言葉は、「正しく生きていても報われないことがある」という現実への、孔子の静かな受容と誇りです。

  • 孔子は、自らの理想と才覚が理解されず、仕官の機会にも恵まれなかった。
  • しかしそのことに対して、「運命(天)」や「他人(人)」を一切責めていない
  • むしろ、学び続け、努力し続けることで、人としての完成を目指してきたことを、誇りにしているのです。

原文とふりがな付き引用:

「子(し)曰(いわ)く、
我(われ)を知るもの莫(な)きかな。
子貢(しこう)曰(いわ)く、
何為(なんす)れぞ其(そ)れ子(し)を知る莫(な)からんや。
子曰く、
天(てん)を怨(うら)みず、人(ひと)を尤(とが)めず。
下学(かがく)して上達(じょうたつ)す。
我を知る者は、其(そ)れ天(てん)なるか。


注釈:

  • 莫我知也(われをしるものなし) … 自分の価値を理解されないことへの嘆き。
  • 怨天尤人(えんてんゆうじん)せず … 天(運命)も人(世間)も責めない。潔さと覚悟。
  • 下学而上達(かがくしてじょうたつ) … 基礎的なことから学び、だんだん高い境地へ至ること。孔子の学びの姿勢を象徴する語。
  • 知我者其天乎(われをしるものはそれてんなるか) … 本当に自分の志を理解しているのは“天(天命・宇宙・道)”だけかもしれない、という独白。

教訓:

この章句は、**「正しい努力が報われないとき、どう生きるか」**という問いに対する、
孔子の深い精神のあり方を示しています。

  • 外の評価に心を乱さず、ただ自らを磨き続ける。
  • 境遇に不満を言わず、黙々と道を歩む。
  • その姿勢こそが、本物の賢者のあり方である。

1. 原文

子曰、莫我知也夫。
子貢曰、何爲其莫知子也。
子曰、不怨天、不尤人、下學而上達、知我者其天也。


2. 書き下し文

子(し)曰(いわ)く、我(われ)を知(し)る者、莫(な)きかな。
子貢(しこう)曰く、何(なん)すれぞ其(そ)れ子(し)を知(し)る莫(な)からんや。
子(し)曰く、天(てん)を怨(うら)みず、人(ひと)を尤(とが)めず。
下(か)に学(まな)びて上(かみ)に達(たっ)す。
我を知(し)る者は、其(そ)れ天(てん)なるか。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

「孔子は言った:自分のことを本当に理解してくれる者は、誰もいないなあ」
→ 深い嘆息にも似た言葉。

「子貢が言った:なぜ、先生を理解する人がいないのですか?」
→ 弟子である子貢は、師である孔子に強い共感と敬意を持ち、疑問を呈した。

「孔子は言った:私は天を恨まず、人を責めない」
→ 不遇を他人や運命のせいにせず、常に自己修養に励む姿勢。

「下から学び、上の道理へと至る」
→ 地道に学び続け、やがて高い真理・道徳に至る努力を積んでいる。

「私のことを理解してくれるのは、もしかしたら“天”だけかもしれない」
→ 真の理解者は、この世にはいないが、「天=宇宙の理(ことわり)」は自分を知ってくれているという心情。


4. 用語解説

  • 莫我知(われをしるものなし):誰も自分の本質や真意を理解してくれない、という嘆き。
  • 怨天尤人(てんをうらみず ひとをとがめず):不運や困難を、天命や他人のせいにしない姿勢。儒家の自立精神の象徴。
  • 下学而上達(かがくしてじょうたつ):地道な努力から出発し、高い道義や真理に至る。儒者の修養道。
  • 天(てん):孔子思想では、運命・自然・倫理的宇宙秩序を含む神聖な存在。人格神とは限らない。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孔子はこう嘆いた:

「私のことを本当に理解してくれる者は、いないものだ。」

弟子の子貢が反問した:

「なぜ誰も先生を理解できないのですか?」

孔子は答えた:

「私は、運命を恨むこともなく、人を責めることもない。
下から学びを重ね、上の道理に至ろうとしている。
そんな私を、理解してくれているとすれば──それは“天”だけかもしれない。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「誠実に生きる者の孤独と、それでも学び続ける姿勢」**を示しています。

  • 孔子ほどの人物でも、“誰にも理解されない”という感覚を抱くことがある。
  • しかし彼はその孤独を嘆くだけでなく、**「天だけは見ていてくれる」**という信念を持っていた。
  • また、他責思考に陥らず、**「学ぶことで道に至る」**という、静かな意志を示している。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

✅「理解されなくても、正しく生きる」

  • 信念や理念を持って行動していても、周囲には伝わらず、誤解されたり評価されないこともある。
  • それでも「正しいと信じることを続ける」人が、本物のリーダーとなる。

✅「他責に逃げず、自ら学び続ける姿勢が、信頼と尊敬を生む」

  • 「会社が悪い」「上司が評価しない」と外に原因を求めるよりも、
    自ら成長することに集中する人が、長期的に信頼され、成長し続ける

✅「“天”=本質は見ている。短期の評価に一喜一憂しない」

  • 今すぐ認められなくても、「原理・原則にかなった努力」は必ず意味を持つ。
    一貫した行動が、見えない“信頼資本”を築いている

8. ビジネス用の心得タイトル

「理解されずとも怨まず、黙々と学び道を歩む──“天知る”者の強さ」


この章句は、評価されないことに苦しむ人に、
「それでも自分の道を誠実に歩みなさい」という、孔子からの静かな励ましです。

理解されなくてもよい。
正しく、努力を重ね、己を磨き続ける人間にこそ、「天」が報いる。
それが、孔子が語る“孤高の学び人”の美学です。


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