――凡庸なリーダーでも、適材適所が機能すれば体制は維持される
孔子が、衛(えい)の君主**霊公(れいこう)の無道(むどう)ぶり――
政治の乱れ、私生活のだらしなさなどについて語っていたところ、
魯(ろ)の重臣季康子(きこうし)**が疑問を投げかけました。
「それほどひどい君主なら、どうしてまだ地位を保てているのですか?」
これに対し、孔子はこう答えます。
「衛には有能な人材が揃っており、それぞれの分野で役割をしっかり果たしているからだ。
外交には仲叔圉(ちゅうしゅくぎょ)、
祭祀には祝鮀(しゅくた)、
軍事には王孫賈(おうそんか)――
皆が適材適所で機能しているため、国が崩れずに済んでいる。」
本質:
これは、「リーダーの徳」だけで組織が支えられているのではないという現実的な洞察です。
- トップが無能でも、組織の中で人材が正しく配置され、それぞれの職務を全うしていれば、組織は動く。
- 制度や仕組み、人材登用がきちんとしていることが、長期的な安定のカギとなる。
これは現代の組織運営、企業経営、政治体制においても通じる普遍の真理といえます。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)、衛(えい)の霊公(れいこう)の無道(むどう)を言(い)う。
康子(きこうし)曰(いわ)く、夫(そ)れ是(こ)の如(ごと)くんば、奚(なに)すれぞ喪(ほろ)びざる。
子曰く、
仲叔圉(ちゅうしゅくぎょ)、賓客(ひんかく)を治(おさ)め、
祝鮀(しゅくた)、宗廟(そうびょう)を治め、
王孫賈(おうそんか)、軍旅(ぐんりょ)を治む。
夫(そ)れ是の如くんば、奚すれぞ其(そ)れ喪びん。」
注釈:
- 霊公(れいこう) … 衛の君主。妻・南子に振り回され、政務を顧みなかったとされる。
- 仲叔圉(ちゅうしゅくぎょ) … 外交・賓客対応の担当者。
- 祝鮀(しゅくた) … 宗廟(祖先祭祀)を取り仕切る神事の責任者。
- 王孫賈(おうそんか) … 軍事の担当者で、衛の安全保障を担った。
- 喪びん(ほろびん) … 滅びる、地位を失う、体制が崩壊すること。
教訓:
孔子がこの章句で伝えているのは、
**「指導者が凡庸であっても、人材が適材適所で力を発揮していれば、その体制は崩れない」**という現実認識です。
つまり、「制度と人材の運用こそ、組織の持続性の根幹」なのです。
1. 原文
子言衞靈公之無道也。康子曰、夫如是、奚而不喪。孔子曰、仲叔圉治賓客、祝鮀治宗廟、王孫賈治軍旅。夫如是、奚其喪。
2. 書き下し文
子(し)、衛(えい)の霊公(れいこう)の無道(むどう)を言(い)う。
康子(こうし)曰(いわ)く、夫(そ)れ是(か)くの如(ごと)くんば、奚(なん)ぞ而(しか)も喪(ほろ)びざる。
孔子(こうし)曰く、仲叔圉(ちゅうしゅくぎょ)、賓客(ひんかく)を治(おさ)め、祝鮀(しゅくた)、宗廟(そうびょう)を治め、王孫賈(おうそんか)、軍旅(ぐんりょ)を治む。
夫(そ)れ是の如くんば、奚(なん)ぞ其(そ)れ喪(ほろ)びん。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「子、衛の霊公の無道を言う」
→ 孔子は、衛国の霊公が道義に欠けた政治をしていることを非難した。
「康子曰く、夫れ是くの如くんば、奚ぞ而も喪びざる」
→ 康子が言った。「そんなにひどい君主であるなら、なぜ国が滅びないのですか?」
「孔子曰く、仲叔圉が賓客を治め、祝鮀が宗廟を治め、王孫賈が軍事を治めている」
→ 孔子は答えた。「仲叔圉が外交・接待を担当し、祝鮀が国家の祭祀を執り行い、王孫賈が軍務を管理しているのだ。」
「是の如くんば、奚ぞ其れ喪びん」
→ 「このように有能な家臣たちが支えているのだから、国がすぐに滅びることはないだろう。」
4. 用語解説
- 霊公(れいこう):衛国の君主。道義を欠いた君主として孔子に批判されている。
- 無道(むどう):道義に反していること。政治的に不徳である状態。
- 康子(こうし):魯の大夫。孔子に問いを投げかけた人物。
- 仲叔圉(ちゅうしゅくぎょ):衛国の家臣。外交・賓客の接遇を担当。
- 祝鮀(しゅくた):宗廟の祭祀を司る人物。
- 王孫賈(おうそんか):軍務を統率する将。
- 宗廟(そうびょう):祖先を祀る場。国家の精神的・儀礼的中枢。
- 喪(ほろ)ぶ:国家が滅びる、壊れること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子は、衛国の霊公が道義に欠けた君主であることを非難した。
これを聞いた康子が疑問を投げかけた:
「それほど悪い君主なら、なぜ衛国は滅びないのですか?」
孔子はこう答えた:
「霊公が無道であっても、仲叔圉が外交を、祝鮀が宗廟を、王孫賈が軍をそれぞれきちんと担当している。
このように有能な臣下が国を支えているから、国がすぐに滅びないのだ。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「無能なリーダーでも、有能な部下がいれば国家(組織)は維持される」**という
現実的な権力構造を示しています。
- 孔子は霊公の徳を否定する一方で、組織の存続は“補佐役”の力量に大きく依存することを認めている。
- 組織において、トップの資質が理想でなくとも、
中間層・専門職が適切に機能していれば、その組織は破綻しない。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「トップが未熟でも、現場の優秀なリーダーが支える組織は崩れない」
- 経営層が方向性に迷っていても、ミドルマネジメントが職責を果たしていれば業務は回る。
- 現場力・中間層のプロフェッショナリズムは、組織存続の生命線。
✅「組織の命運は“実務を司る人材”の質で決まる」
- 儀礼(祝鮀)、接遇(仲叔圉)、軍事(王孫賈)という各専門分野の安定が国家を支えていた。
- 現代における法務・財務・人事・営業などの専門家集団も同様に、企業の柱である。
✅「形式的リーダーではなく、“実務に強い人材”が危機を救う」
- 非常時や経営不安の時期に、“無道なトップ”ではなく、実務に通じた誠実な部下たちの判断が組織を守る。
8. ビジネス用の心得タイトル
「上が駄目でも、現場が回せ──補佐の力が組織を支える」
この章句は、「トップの人格や資質の有無」に一喜一憂するのではなく、
“仕組みと人材配置”によって組織は救われるという、現代の企業経営にも通じる教訓を示しています。
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