――真のリーダーとは、人を見抜き、公平に登用できる人である
孔子は、衛(えい)の大夫である**公叔文子(こうしゅくぶんし)**の行動を聞いて、こう賞賛しました。
文子は自らの家臣であった**僎(せん)**という人物を、
朝廷の場で自分と同じ大夫の位にまで推挙したというのです。
それを聞いた孔子は、次のように言いました。
「自分の家臣でも、有能であれば自分と同列に引き上げるとは、
“文(ぶん)”という諡(おくりな)にふさわしい人物だ。」
ここでの「文」は、徳と教養を兼ね備え、バランスの取れた人格を意味します。
孔子は、公叔文子の人物評価の公正さ・人材登用の潔さを高く評価しています。
原文とふりがな付き引用:
「公叔文子(こうしゅくぶんし)の臣(しん)の大夫僎(せん)、
文子と同(おな)じく、諸(これ)を公(こう)に升(のぼ)さる。
子(し)、之(これ)を聞(き)きて曰(いわ)く、
以(もっ)て文(ぶん)と為(な)すべし。」
注釈:
- 公叔文子(こうしゅくぶんし) … 衛の大夫で、諡(おくりな)として「文」を贈られた人物。人格と功績を称えられた。
- 僎(せん) … 文子の部下であったが、優秀さが認められ、大夫に昇格した。
- 公に升さる … 君主のもとで、正式な大夫(高官)として登用されること。
- 文(ぶん) … 「礼・調和・教養・品格」を備えた人物につけられる諡号(しごう、死後に贈られる名誉称号)。
教訓:
この章句が伝えるのは、人の力量を私心なく評価し、公平に登用できる人物こそ真のリーダーであるということ。
- 地位を守るために優秀な人材を抑え込むのではなく、
- 自分と同列の地位に立たせても惜しくないと思える度量を持つこと――
それが「文(ぶん)」という美徳の根本であり、
孔子はそこに人徳と政治力の両立を見出していたのです。
1. 原文
公叔文子之臣大夫僎、與文子同升諸公。子聞之曰、可以為文矣。
2. 書き下し文
公叔文子(こうしゅくぶんし)の臣(しん)なる大夫(たいふ)僎(せん)、文子と同(とも)に諸(これ)を公(こう)に升(のぼ)せらる。
子(し)、之(これ)を聞(き)きて曰(いわ)く、以(もっ)て文(ぶん)と為(な)すべし。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「公叔文子の臣なる大夫僎、文子とともに諸を公に升せらる」
→ 公叔文子に仕える家臣の大夫・僎が、主君である文子と共に君主に拝謁することを許された。
「子、これを聞きて曰く、以て文と為すべし」
→ 孔子はこのことを聞いて言った。「これは“文”と称してよい(=文の徳を備えた人物だ)」
4. 用語解説
- 公叔文子(こうしゅくぶんし):魯の高官で、温厚・礼儀正しい人物とされる。孔子がしばしば評価対象とする。
- 大夫僎(たいふ せん):文子の家臣。名前は僎。家臣でありながら主君と並んで拝謁する名誉を得た。
- 諸公に升(のぼ)す:諸(これ)を公に升(のぼ)す=君主(公)への公式の場に昇殿すること。極めて格式の高い場。
- 文(ぶん)と為す:ここでの「文」は「礼儀と秩序を備えた美徳」や「文化的完成度の高い人格者」という評価。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
公叔文子の家臣である大夫・僎が、主君の文子と共に君主に拝謁するという特別な待遇を受けた。
孔子はそれを聞いて、
「このような主従関係と儀礼の秩序が保たれているのは、まさに“文”の徳があると評価できる」
と語った。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「主従の関係における尊重と礼の実践」**が、
人格的完成(=文)として評価されることを示しています。
- 家臣が君主に拝謁する際、主君と並んで拝謁を許されることは極めて稀。
- これは、主君の徳が高く、家臣との信頼関係が厚いことの証拠。
- 孔子はこれを見て、「単に制度を守っているだけではなく、礼節と信頼が実践されている」と評価。
- ここでの「文」とは、単なる形式美ではなく、人格的・社会的成熟の表現である。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「上下の“礼と信頼”が揃ってこそ、成熟した組織文化となる」
- 上司が部下を形式的にではなく人格的に尊重することで、部下もまた組織に忠誠心をもつ。
- 主君と家臣が“並んで評価される”関係性は、心理的安全性と敬意の文化を示す。
✅「礼を尽くす姿勢が、信頼と組織の品格を生む」
- 儀礼・儀式を軽んじず、一つ一つの所作や場の秩序を大切にする組織は、信頼と尊敬を集めやすい。
✅「“文”のある組織とは、礼と尊重が両立している組織」
- 単に効率や成果を追うのではなく、人としての扱われ方・人間関係の整いを重んじることが、「成熟」につながる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「礼に始まり、信に至る──“文の徳”が信頼される組織をつくる」
この章句は、人格の成熟と組織における敬意の循環が、
“文化(文)ある社会・組織”を形作るという、孔子の深い価値観を示しています。
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