――力をふるうなら、まず徳を立てよ
孔子は、春秋時代の代表的な覇者である**晋の文公(ぶんこう)と斉の桓公(かんこう)**の両者を比較し、こう語った。
「晋の文公は謀(はかりごと)をもって覇を成したが、正道に則ってはいなかった。
斉の桓公は正道により、謀略には頼らなかった。」
つまり、両者ともに覇者となり、諸侯の盟主として周王朝を支えたが、
その道筋には大きな違いがあったということ。
- 文公(ぶんこう)は、十九年間の亡命生活を経て帰国し、謀略と外交術によって覇を成した人物。
しかしその手段は正義よりも策略に偏っていたと孔子は見ていた。 - 一方、**桓公(かんこう)は、名宰相管仲(かんちゅう)**を起用し、
仁義と秩序ある政治をもって国を治め、覇を成した。
その姿勢は「正(ただ)しきによって勝つ」理想に近い。
孔子は、ただ覇者になることだけを目指すのではなく、
“どうやって”覇を成すかが重要であり、
“正道によりつつ強くなること”があるべき国家運営の姿だと示唆している。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、
晋(しん)の文公(ぶんこう)は譎(けつ)にして正(せい)ならず。
斉(せい)の桓公(かんこう)は正にして譎ならず。」
注釈:
- 晋の文公(ぶんこう) … 名は重耳。長年の亡命を経て帰国し、覇者となったが、策略に頼る場面が多かった。
- 斉の桓公(かんこう) … 名は小白。名宰相管仲の補佐を得て、徳と秩序ある統治を実現した覇者。
- 譎(けつ) … 権謀術数。計略や駆け引き。ここでは否定的なニュアンスで使われている。
- 正(せい) … 道義・礼・信といった「正しい政治姿勢」。
教訓:
この章句は、リーダーシップにおける“過程の正しさ”の重要性を説いています。
結果を出すだけではなく、その手段が徳にかなっているかを問う姿勢が、
真の信頼と秩序を生むのです。
1. 原文
子曰、晉文公譎而不正、齊桓公正而不譎。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、晋の文公(ぶんこう)は譎(けつ)にして正(ただ)しからず。斉の桓公(かんこう)は正しくして譎ならず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「晋の文公は譎にして正ならず」
→ 孔子は言った。「晋の文公は、策略や狡猾さには長けていたが、正道に欠けていた。」
「斉の桓公は正にして譎ならず」
→ 「斉の桓公は、正しい道を守ったが、策略に乏しかった。」
4. 用語解説
- 晋の文公(しんのぶんこう):春秋時代の晋国の君主。流亡生活を経て即位し、政治的には巧みに振る舞ったが、孔子からは正義に欠けると批判された。
- 斉の桓公(せいのかんこう):斉国の覇者。名宰相・管仲を用いて覇業を成し遂げた君主で、孔子が高く評価した人物の一人。
- 譎(けつ):ずる賢さ、策略を巡らせること。狡猾とも訳される。
- 正(せい/ただしい):正義・誠実さ・道徳的正しさ。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「晋の文公は、狡猾で策略には富んでいたが、道義に欠けていた。
一方、斉の桓公は道理を重んじる政治を行ったが、策略に頼らなかった。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「リーダーにおける“賢さ”と“正しさ”のバランス」**を問いかけるものです。
- 晋の文公は、政略的な手腕で一定の成功を収めたが、道義を犠牲にしていた点が問題視されている。
- 斉の桓公は、戦略に長けた宰相・管仲を得て覇者となったが、自身の姿勢は誠実で道義的であったと孔子は評価。
- 孔子は「正道を守る姿勢」がリーダーにとって最も重要だと考えていた。
- 「譎(賢さ)」を否定しているわけではないが、それが**“正義を損なうほどになってはいけない”**という含意がある。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「戦略よりも“信頼される正しさ”を」
- どんなに巧妙な戦略を立てて成果を出しても、社員や顧客の信頼を損ねれば長続きしない。
- 誠実な姿勢は、短期的には目立たなくても、中長期での信頼と継続的成果の土台となる。
✅「ずる賢いだけのリーダーは評価されない」
- 策略的に有利な立ち回りをする人は一時的に成功することもあるが、誠実さが伴っていないと周囲に不信感を与える。
- 「正しさ」が伴わない巧みさは、組織文化や士気を損なう要因になる。
✅「“道義の軸”を持ちつつ、賢く動く」
- 孔子の評価から学ぶべきは、「正道を守りながら賢く立ち回る」バランス。
- 「譎」は否定すべきではなく、「正」と組み合わせてこそ、真のリーダーシップが成立する。
8. ビジネス用の心得タイトル
「賢さより“正しさ”、成功より“信頼”──リーダーは道義を忘れるな」
この章句は、現代のビジネスリーダーやマネジメント層にとって、
“道義的リーダーシップ”の重要性を示す貴重な教訓です。
コメント