――人格と能力は別物であり、役割には適材がある
孔子は、魯の人物・**孟公綽(もうこうしゃく)**についてこう評した。
「孟公綽は、趙(ちょう)や魏(ぎ)といった大家の“老”(家老・顧問)としては申し分ない。
しかし、小国の大夫(政治を担う実務家)としては適していない。」
ここで孔子が言いたいのは、人格が優れていても、それにふさわしい役割とそうでない役割があるということ。
孟公綽は、無欲で徳のある人物として尊敬されていたが、
政治的判断力や果断さには欠けていたと見られる。
- 趙・魏のような大家では、すでに政治の主導者がいて、孟公綽はその補佐役として活躍できる。
- しかし、小国の大夫となると、指導力・実行力が問われるため、彼の長所だけでは足りない。
孔子は、**「どんなに良い人でも、すべての職務に向いているわけではない」**という現実を明快に示している。
これは現代にも通じる教訓であり、
**「人を用いるには、その器を見極めることが大切」**だという、リーダーや組織にとっての重要な指針である。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、
孟公綽(もうこうしゃく)は、趙魏(ちょうぎ)の老(ろう)となれば則(すなわ)ち優(すぐ)れたり。
以(もっ)て薛(せつ)の大夫(たいふ)と為(な)るべからず。」
注釈:
- 孟公綽(もうこうしゃく) … 魯の大夫。人格的に優れており、孔子もその徳を認めていた。
- 趙・魏 … 晋(しん)の名門貴族。指導層が確立しており、補佐役として安定した役割が求められる。
- 老(ろう) … 家老。主君に仕える高位の参謀・顧問的役職。
- 薛(せつ) … 小国で、独立的な指導力と責任が必要な環境。そこでは一人で全体を動かす力量が求められる。
- 優(すぐ)れたり) … その職において十分な能力・適性を持っていること。
1. 原文
子曰、孟公綽為趙魏老則優、不可以為薛大夫。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、孟公綽(もうこうしゃく)は趙魏(ちょうぎ)の老(おとな)となれば則(すなわ)ち優(まさ)れり。以(も)って薛(せつ)の大夫(たいふ)と為(な)るべからず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
「子曰く、孟公綽は趙魏の老となれば則ち優なり」
→ 孔子は言った。「孟公綽は、趙や魏の地方の“長老”のような役職ならば、実に優れている。」
「以て薛の大夫と為るべからず」
→ 「しかし、薛のような国の重臣にはふさわしくない。」
4. 用語解説
- 孟公綽(もうこうしゃく):春秋時代の人物。穏やかで柔和だが、大事を決断する力に欠けると見られていた。
- 趙・魏(ちょう・ぎ):春秋戦国時代の有力諸侯の一族。ここでは地方の有力家系や小規模な封地。
- 老(おとな):長老・顧問・指導役。穏やかで教養ある人物に任されるポジション。
- 優(まされり):ふさわしい、優秀である。
- 薛(せつ):かつて斉国の属国として存在した地方国家。ここでは“政治の中心に近い重責”を象徴。
- 大夫(たいふ):諸侯に仕える高官。政治・軍事の中核を担う。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「孟公綽は、趙や魏のような地方の長老職であれば、非常に有能で適任である。
しかし、薛のような重要な国の中枢で責任を負う大夫の任には耐えられないだろう。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「人物にはそれぞれに適した役割がある」**という、孔子の適材適所の思想を表しています。
- 穏やかで人格的に優れた人物でも、すべての役職に向いているとは限らない。
- 重要なのは、「その人の性質や能力にふさわしい場を見極めること」。
- 孔子は、孟公綽の徳を否定しているのではなく、重責を担うリーダーに必要な決断力や統率力に欠けていると冷静に判断しています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
✅「優れた人材でも、“場”を間違えると力を発揮できない」
- 誠実で温厚な社員を、強い意思決定が求められるポジションに置くと、本人も組織も不幸になる。
- リーダーシップの役割には向き不向きがあるという現実を、評価者・マネージャーは理解すべき。
✅「人を見るときは“資質”と“ポジション”の適合性を見よ」
- 孔子は“性格や能力”を見て役職適正を判断した。
- 役職の責任や環境に対して、その人物の資質が合っているかを冷静に見極めることが重要。
✅「温厚な人材は“支える側”で真価を発揮する」
- 決断する立場ではなく、信頼される参謀や助言者として活躍できるタイプがいる。
- 彼らをリーダーにしようとして潰すのではなく、“支えるプロ”としてのキャリアを認める文化が必要。
8. ビジネス用の心得タイトル
「人を知り、場を与えよ──適材適所こそが組織を活かす」
この章句は、孔子が現代の人事配置・タレントマネジメントにも通じる
“人の器と任の重さ”を見極める力の重要性を説いたものであり、
リーダー養成や人事評価に関わる全ての人に強く響く教訓です。
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