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世が正しくなければ、正しく食ってはならぬ

――身を置く場の正義に、自らの行動も問われる

孔子の弟子で清廉な人物として知られる**原憲(げんけん)**が、「恥とは何か」と尋ねたとき、
孔子はこう答えた。

邦(くに)に道(みち)有らば、榖(こく)す。
邦に道無くして榖するは、恥なり。

つまり、国(あるいは組織)に正しい道理が行われているときに報酬を得て働くのは当然だが、
正義が失われている中で俸禄を受け取り続けるのは“恥”である
、ということ。

ここで孔子が問うているのは、自分が属する場の“倫理”と、自らの行動との整合性である。
腐敗した政に関わり、利を得ることは、どれほど仕事をしていても正しいとは言えない。

これは現代においても、組織や制度の不正義に無自覚なまま加担し続けることの危うさを鋭く突いている。
「よく働いているか」ではなく、「何のために、どこで働いているのか」を問う、厳しい倫理の一言である。


原文とふりがな付き引用:

「憲(けん)、恥(はじ)を問(と)う。
子(し)曰(いわ)く、邦(くに)に道(みち)有(あ)らば榖(こく)す。
邦に道無(な)くして榖するは、恥(はじ)なり。


注釈:

  • 原憲(げんけん) … 孔子の弟子。質素・清廉な生活を貫いた人物で、道義に非常に敏感だった。
  • 恥(はじ) … 単なる世間体ではなく、道徳的な良心に照らした「はずべきこと」。
  • 邦に道有らば榖す … 国(=体制・組織)が正しければ、そこから報酬を得て働くのはよい。
  • 道無くして榖す … 正義がない状態で報酬を受ける=不正義に加担すること。

1. 原文

憲問恥。子曰、有邦道則榖、無道則榖、恥也。


2. 書き下し文

憲、恥(はじ)を問う。子(し)曰(いわ)く、邦(くに)に道(みち)有(あ)らば榖(こく)す。邦に道無くして榖するは、恥なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

「憲、恥を問う」
→ 憲(けん:宰我)が「恥とは何か」と孔子に尋ねた。

「子曰く、邦に道有らば榖する」
→ 孔子は答えた。「国に道(=政治的正義)があるときに、俸禄(生活の糧)を得るのは当然であるが、」

「邦に道無くして榖するは、恥なり」
→ 「国に道がない(=不正や混乱の政治状態)にもかかわらず俸禄を得るのは、恥ずべきことである。」


4. 用語解説

  • 憲(けん):弟子・宰我(さいが)の名。才知には優れていたが、孔子には倫理面で批判されることが多かった人物。
  • 恥(はじ):道義的に恥ずべき行為や、人格の低さを問う倫理的な概念。
  • 道(みち):ここでは、国家や社会における「道理」や「正義」のこと。
  • 榖(こく):米や穀物などの生活の糧。転じて「俸禄(給料)」を意味する。
  • 榖する:禄を得て生活する、収入を得ること。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

宰我が「人として何が恥ずべきことか」と問うたとき、孔子はこう答えた:

「正義が行われている国で、正当に俸禄(生活の糧)を得るのは問題ない。だが、正義が失われ、政治が乱れている中で、自分だけがその体制に加担して報酬を得ているようであれば、それは恥ずべきことである。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「時と状況に応じた倫理的判断」と「正義への共感と行動」を問う、極めて実践的な教訓です。

  • 政治や社会が公正であれば、その恩恵に預かるのは正当である
  • しかし、不正義のなかで利益だけを得るのは、“道義を欠いた人間”であり、恥ずべきことである

現代にも通じる「環境や体制に盲従して私益を図ることへの批判」として読むことができます。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

✅「制度に依存して利益を得るだけでは信用されない」

たとえば、業務の正当性や組織の健全性が問われているときに、「自分だけは得をしている」という姿勢は、チームや顧客からの信頼を失います。

✅「正しくない環境で成果を出しても、それは誇れない」

ブラック企業、談合、不正な商習慣などの中で業績を上げても、それは「恥」として捉えるべきであるという視点が問われます。

✅「成果よりも“正しいプロセス”が倫理的価値を生む」

表面的な成果や売上だけでなく、「どのようにしてそれを得たか」に焦点を当てるマネジメントが重要です。

✅「企業文化や組織風土が不正義であるとき、あなたはどう振る舞うか」

たとえ制度に従って給与が支払われていても、その根底が不正義であれば、そこに無批判に加担すること自体が「恥」だという覚悟が求められます。


8. ビジネス用の心得タイトル

「正しき時に、正しき報酬を」──成果よりも“正義への加担”を誇れ


この章句は、個人の報酬や成果よりも、社会的正義と調和した行動こそが“誇れる仕事”であるという、現代の倫理リーダーシップにも直結する教訓です。


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