――準備なき命令は、責任の放棄にすぎない
孔子は、戦争における民の扱いについて、厳しい言葉でこう断じた。
「教育も訓練もしない民を戦争に用いるのは、
その命を捨てるのと同じことである。」
戦う者に必要なのは、武器だけではない。
知識・判断力・勇気・規律・責任感――それらを備えて初めて、民は「兵」たり得る。
準備もなく戦わせるのは、勝つための戦ではなく、ただの犠牲を強いる戦。
孔子はそれを、「棄(す)つる」=見捨てることと断言した。
これは単に軍事の話ではない。
人に大きな任務を与えるとき、その人を育てずに任せるのは、捨てるのと同じ――
現代の教育・リーダーシップにも通じる、深い警句である。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、教(おし)えざるの民(たみ)を以(もっ)て戦(たたか)う。是(これ)れ、之(これ)を棄(す)つると謂(い)う。」
注釈:
- 教えざるの民 … 十分な教育や訓練を受けていない国民。
- 以て戦う … 軍務・戦争に就かせること。
- 之を棄つる … 捨てる、見殺しにする、無責任に命を扱うという強い非難。
1. 原文
子曰、以不教民戰、是謂棄之。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、教(おし)えざるの民(たみ)を以(もっ)て戦(たたか)う。是(こ)れ、之(これ)を棄(す)つると謂(い)う。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「孔子は言った:教育されていない民衆を戦場に出すことは、」
→ 「教養や訓練を受けていない人々を戦わせるのは、」 - 「その人たちを捨てる行為と同じだ」
→ 「まるで彼らの命を見捨てるような行為である。」
4. 用語解説
- 不教(ふきょう):教育を施していない状態。ここでは道徳教育・軍事訓練・秩序意識など、民としての教えを受けていないこと。
- 民(たみ):人民・庶民。ここでは徴兵対象となる一般人。
- 以て戦う(もってたたかう):そのまま戦場に投入すること。
- 棄つ(すつ):捨てる、顧みない、見殺しにすること。
- 是謂~:「これを~という」という断定表現。孔子の強い倫理的評価を示す。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「教育も訓練も施さずに人々を戦場に出すことは、
彼らを捨てるのと同じことである。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、孔子が**「人間の命を尊重するために、教育が不可欠である」**と強調した名言です。
- 国家のために命を懸ける場に人を送り出すなら、その前提として“教育”が絶対条件である。
- 無知・未訓練の状態で任務に就かせるのは、単なる使い捨てであり、非人道的行為である。
- これは古代の軍事だけでなく、現代のビジネスや社会全体に通じる倫理観です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「教育なき配属は、社員を使い捨てる行為」
新人・異動者・プロジェクトメンバーを十分な準備・研修なしに現場投入することは、本人にも組織にも損失をもたらす。 - 「育てずに任せるのは、任せたことにならない」
“実力主義”や“放任マネジメント”の名のもとに、育成責任を果たさない上司は“見捨てている”のと同じ。 - 「教育投資は命の尊重」
研修・OJT・フィードバックは単なる形式ではなく、人を守り、活かすための必須条件。 - 「適正配置の前に、適正教育を」
配属や評価制度よりもまず、基本スキル・価値観・組織理解の教育を施してから任せるべきという教訓。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「教えずに任せるな──“教育なき配属”は人を捨てることと同じ」
この章句は、人を人として扱うならば、まず教育せよという、孔子の根本的な人間尊重の思想を示すものです。
現代においても、「育成なくして任用なし」「準備なくして戦なし」という原則は、組織づくり・人材マネジメントの根幹をなします。
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