――君子は己を持ちつつ、他とともに在る
孔子は、「君子(くんし)」と「小人(しょうじん)」の違いを、**“和”と“同”**という二つの言葉で見事に表現した。
「君子は人と和(やわ)らぐが、無理に同(おな)じようにはしない。
一方、小人は人と外面だけ合わせておきながら、本当には和しない。」
つまり、君子は自分の信念を保ちながら、他人とも協調できる。
しかし、必要以上に相手に迎合したり、安易に群れたりはしない。
逆に小人は、周囲に合わせて同調はするが、根底に信頼や尊重がないため、いざというときに調和し協力することができない。
これは現代社会にも通じる、人間関係の本質を鋭く突いた言葉である。
調和とは、考えや個性の違いを認め合いつつ、共に在ろうとする努力であり、ただ従うことではない。
君子とは、独立した人格を持ちながらも、共に進むことのできる人なのだ。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、君子(くんし)は和(やわ)らげて同(おな)ぜず。小人(しょうじん)は同じて和せず。」
注釈:
- 和(わ)す … 心からの調和。意見が異なっていても互いに尊重し、良い関係を築こうとする姿勢。
- 同(どう)ず … 雷同すること。自分の意見や考えを放棄し、無批判に他人に合わせること。
- 君子(くんし) … 高い徳と判断力を備えた理想的な人物。
- 小人(しょうじん) … 見識が浅く、利害や感情で動く人物。
1. 原文
子曰、君子和而不同、小人同而不和。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、君子(くんし)は和(わ)して同(どう)ぜず、
小人(しょうじん)は同じて和せず。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「君子は和して同ぜず」
→ 立派な人(君子)は、他人と調和しながらも、むやみに同調はしない(自分の考えを持っている)。 - 「小人は同じて和せず」
→ つまらない人(小人)は、形だけ同調しても、心からの調和はない(本音では反発している、または流されているだけ)。
4. 用語解説
- 君子(くんし):人格・知識・行動に優れた理想的な人物。リーダーの資質を備えた人。
- 小人(しょうじん):自己中心的で視野が狭く、利己的な人物。原理原則よりも損得で動く。
- 和する(わする):意見の違いを尊重しながら協調すること。多様性の中の調和。
- 同ずる(どうずる):自分の考えを持たずに、ただ人に合わせること。盲目的な追従。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「君子は人と調和しながらも、自分を失うような同調はしない。
小人は表面的には人に合わせても、真の調和はできない。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「多様性の中での健全な協調」と「盲目的な同調」の違いを鋭く指摘しています。
- 君子は、**意見の違いを認めた上での協調(建設的な多様性)**を実現する。
- 小人は、周囲の意見にただ合わせるだけの依存的・迎合的姿勢をとる。
- 真の“和”とは、自分の意見を持ちつつ、相手の考えも尊重する対話の中に生まれる調和なのです。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「本音で向き合う“健全な議論”が強い組織をつくる」
「上に逆らわない」「会議で反対意見を言わない」ような同調姿勢は、創造性と信頼を損なう。
君子型チームは、異なる意見を歓迎し、対話を通じて結束する。 - 「“ノーと言える文化”が和を生む」
言いにくいことを言える環境こそが、信頼と本当のチームワークを育てる。 - 「同調圧力はチームを壊す」
「みんなが言ってるから」「空気を読んで」ではなく、自分の考えを持ち、建設的に話す力を評価すべき。 - 「リーダーは“和”を作るために“違い”を活かす」
調和とは妥協ではなく、違いを力に変えるマネジメント。君子型リーダーはこの視点を持つ。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「迎合ではなく対話を──“和して同ぜず”の組織が信頼と創造を生む」
この章句は、現代の「チームビルディング」「ダイバーシティ」「心理的安全性」といったテーマに非常に通じる思想です。
“調和”とは、個性と違いを認めたうえで築かれる信頼関係だという普遍的なメッセージが込められています。
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