――不変の信念“恒心”が、人格の土台となる
孔子は、南方の人々の間に伝わることわざを引用してこう語った。
「人として恒(こう)なる心がなければ、巫(ふ)にも医(い)にもなれない」
つまり、心が定まらず、言うこと・やることがころころと変わるようでは、
たとえ人を導いたり癒したりする立場に立とうとしても、誰の信頼も得られない。
そして孔子は、易経の一節――
「徳に恒(つね)なるものなき者は、やがて必ず辱(はずかし)めを受ける」
という言葉を引用し、「これは占いによらずとも明らかだ」と断言する。
恒心(こうしん)とは、道理に従って心がぶれずに安定していること。
そのような心の持ち主だけが、自らを律し、他者と真に向き合い、長く信を得ることができる。
孔子の言葉は、流行や気分に流されやすい現代においても響く、人格の基本を示している。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、南人(なんじん)言(い)えること有(あ)り、曰く、人(ひと)にして恒(こう)無(な)ければ、以(もっ)て巫医(ふい)を作(な)すべからず。
善(よ)きかな。其(そ)の徳(とく)を恒(つね)にせざれば、或(ある)いは之(これ)に羞(はずかし)めを承(う)く、とあり。
子曰く、占(うらな)わずして已(や)まん。」
注釈:
- 恒(こう) … 不変の心、安定した意志、継続する徳。これがなければ信頼は築けない。
- 巫医(ふい) … 「巫」は占い師・霊的指導者、「医」は医者。どちらも人を導き、癒す職であり、信用が不可欠。
- 羞を承く(はずかしめをうく) … 世間からの非難・辱めを受けること。
- 占わずして已まん … 占いで確認するまでもなく、真理として明らかである、という強調表現。
1. 原文
子曰、南人有言、曰、人而無恆、不可以作巫醫。
善夫。
不恆其德、或承之羞。
子曰、不占而已矣。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、南人(なんじん)言(い)えること有(あ)り、曰く、
「人にして恒(つね)無(な)ければ、以(もっ)て巫医(ふい)を作(な)すべからず」と。
善(よ)きかな。
其(そ)の徳(とく)を恒にせざれば、或(ある)いは之(これ)に羞(はじ)を承(う)く。
子曰く、占(うらな)わずして已(や)まん。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「孔子は言った:南方の人々にはこんなことわざがある」
→ 「人として節操がなければ、巫者や医師など人に影響を与える職業には就いてはならない。」 - 「善きかな」
→ 「なんと良い言葉だ。」 - 「徳を持続できなければ、やがては恥を受けることになる」
→ 「人格や信頼は一貫性にかかっており、それを保てなければ人に笑われる結果になる。」 - 「孔子は言った:そんな人物には占いなどするまでもない。やめておくに限る」
→ 「一貫性を欠いた者は信用に値せず、試す必要もない。」
4. 用語解説
- 南人(なんじん):南方の地方出身者。しばしば知恵や俗信の源として引用される。
- 恒(こう/つね):一貫性、持続性。変わらぬ態度や徳を意味する。
- 巫医(ふい):巫(まじない師)と医(医者)。共に人を導き、救う役割を担う職業で、人格と信頼が問われる。
- 羞(はじ)を承く:恥をこうむる、社会的非難を受ける。
- 占わずして已む:試したり調べたりするまでもなく、関わらずに終える=信用に値しないという意味の表現。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子は言った:
「南方の人々には、こんな格言がある。
『人として一貫性がない者は、巫者や医師のような人を導く職には就くべきではない』と。」
孔子はこれを聞いて称賛した:
「なんと良い言葉だ。
徳が一貫していなければ、やがて人々の信頼を失い、恥を受けることになる。」
そしてこう締めくくった:
「そんな人物なら、占うまでもなく関わるのはやめておくべきだ。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「一貫性ある人格が信頼と役割を担う基盤である」**という、現代においても通じる道徳的原則を説いています。
- 孔子は、単なる技術や才能よりも、**“恒なる徳=持続的な人格”**を重視しています。
- とくに人に影響を与える立場(巫者や医師、現代でいえば教師・政治家・医療従事者・経営者など)では、その人自身のブレなさが周囲に安心を与える要因になります。
- 「占わずして已む」は、「そもそも関わるに値しない」「試すまでもない」という、人物を見る鋭い基準の表現です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「一貫性のないリーダーは信頼されない」
朝令暮改、気分によって対応が変わる上司は、組織の混乱を生む。
継続的に価値観と行動が一致しているかが評価の要。 - 「長く信頼される人は“変わらない人”」
誠実さ・時間厳守・公平性など、ブレない人柄が周囲からの信頼と任せられる力を育む。 - 「採用・昇格において“恒のある者”を選べ」
スキルや成果だけでなく、言動に一貫性があるか、誠実な信頼関係を築けるかを選考軸とすることで、組織の安定度は高まる。 - 「自己研鑽よりも、自己保持」
知識や技術を磨くだけでなく、**人格的軸を保つこと=“恒の徳”**が、長期的に人としての信用につながる。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「続ける力が信頼を築く──“恒の徳”はリーダーの資格である」
この章句は、「人格のブレなさ=信頼の源泉」という、現代の信頼社会・信用経済・パーパスドリブン組織において不可欠な視点を提供します。
コメント