――知識だけでは、社会は動かせない
孔子は、知識の量よりも「活かせる力」を重んじた。
どれほど詩経を暗唱できたとしても――つまり教養があっても、
それを政治や外交の場で活かせなければ、現実社会では何の役にも立たないという。
教養は飾りではなく、行動の礎である。
学んだことを、社会で役立て、実践し、問題を解決する力。
そこにはじめて「知の価値」が宿る。
原文とふりがな付き引用:
「子(し)曰(いわ)く、詩三百(しさんびゃく)を誦(しょう)す。之(これ)を授(さず)くるに、政(まつりごと)を以(も)ってして達(たっ)せず。
四方(しほう)に使(つか)いして専対(せんたい)すること能(あた)わずんば、多(おお)しと雖(いえど)も亦(また)奚(なに)を以(もっ)て為(な)さん。」
注釈:
- 詩三百 … 『詩経』のこと。儒教における基本経典で、約305篇の詩が収録されている。
- 誦(しょう)す … 暗誦する。声に出して覚えていること。
- 政を授く(まつりごとをさずく) … 政治を任せる、または実務の場に立たせること。
- 専対(せんたい) … 一人で交渉にあたり、臨機応変に対応する能力。
- 奚を以て為さん(なにをもってなさん) … それにどんな意味があるのか?という否定的な問いかけ。
1. 原文
子曰、誦詩三百。授之以政、不達。使於四方、不能專對。雖多、亦奚以爲。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、詩三百(しさんびゃく)を誦(しょう)す。之(これ)を授(さず)くるに政(まつりごと)を以(もっ)てして達(たっ)せず。
四方(しほう)に使(つか)いして専(もっぱ)ら対(こた)うること能(あた)わずんば、多(おお)しと雖(いえど)も、亦(また)奚(なに)を以(もっ)て為(な)さん。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「子曰く、詩三百を誦す」
→ 孔子は言った。「『詩経』三百篇を暗唱していたとしても、」 - 「之を授くるに政を以てして達せず」
→ 「それを生かして政治の仕事を任せても、役に立たないようでは、」 - 「四方に使いして専ら対すること能わずんば」
→ 「外交の任務に出しても、臨機応変に一人で応対できないようでは、」 - 「多しと雖も、亦た奚を以て為さん」
→ 「どれほど多くの詩を暗記していても、それに何の意味があろうか。」
4. 用語解説
- 詩三百:儒教の古典『詩経』。実際は約305篇からなる。「詩三百」と略される。
- 誦す(しょうす):暗唱する。口に出して詩文を覚えること。
- 授之以政(これにまつりごとをさずく):その人物に政治を任せること。
- 達せず:「達」は理解・応用の意味。任務に活かせないこと。
- 使於四方:外国(他国)への使者として派遣すること。
- 専対(せんたい):一人で交渉や応対に当たること。臨機応変な対応力。
- 奚を以て為さん(なにをもってなさん):「いったい何の役に立つのか」という反語的な問い。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言った:
「たとえ『詩経』三百篇を暗唱できたとしても、それを使って政治を任せたときに活用できず、また外国に使いとして行かせても一人で応対できないのなら、その知識はただの記憶にすぎない。
どれだけ多く覚えていようとも、実際に使えないのなら、それに何の意味があろうか。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「知識は使えてこそ意味がある」**という実践重視の姿勢を説いています。
孔子は単なる暗記や形式的な学問を否定しているわけではありません。
むしろ、「知識をどう応用するか」「人の役に立てるか」が重要であり、**“知っている”よりも“使える”**ことを尊重しています。
これは現代にも通じる「実践知」「リテラシー」「問題解決力」の本質を語った言葉です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「知識より行動、暗記より応用」
どれだけ業務マニュアルや社内規定を知っていても、実際の現場で臨機応変に対応できなければ意味がない。 - 「専門知識は、実務で活かしてこそ価値を持つ」
資格や肩書きがあっても、業務の中で判断・実行に役立てられないのでは“資格保有者”でしかない。 - 「アウトプット前提のインプットを」
プレゼンや交渉で活かせない知識、顧客に伝えられない理論は、自己満足にすぎない。伝える力、使う力を育てるべき。 - 「使える人材=応用力・対応力のある人」
“学んだ知識”を“課題解決”に転換できる人材が、組織の中核を担う。OJTだけでなく、実践型研修の整備が有効。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「覚えるだけでは意味がない──“使える知識”が信頼と成果を生む」
この章句は、「知識と行動の一致」「実用主義の学問観」という、現代教育・ビジネス人材育成の核心に通じます。
コメント