孔子は、政治の本質は民を思う誠意と、自ら模範を示す行動にあると説いた。
子路が「政治とは何か」と問うと、先生は「民に先んじて自分がやるべきことをやり、民を労(いた)わることだ」と答えた。
さらに子路が「それだけですか」と重ねて尋ねると、
「今言ったことを、倦(う)まず、あきらめず、根気強く続けることだ」と言い添えた。
人を導く者に必要なのは、言葉ではなく実行力。そして、情熱を継続する粘り強さだ。
政治は一時の策ではなく、不断のまごころがあって初めて、民に届く。
原文とふりがな付き引用:
「子路(しろ)、政(まつりごと)を問(と)う。子(し)曰(いわ)く、之(これ)に先(さき)んじ、之(これ)を労(ろう)す。益(ま)すを請(こ)う。曰(いわ)く、倦(う)むこと無(な)かれ」
「子路が政治について問うた。孔子は『率先して行動し、民を労わること』と答えた。さらに教えを求めると、『あきらめずに続けること』と付け加えた。」
注釈:
- 先んず(さきんず) … まず自分が行動すること。他者に命じる前に自ら模範を示す姿勢。
- 労す(ろうす) … 国民を思いやり、いたわる。共感と配慮を持って接すること。
- 倦む(うむ)こと無かれ … あきらめずに継続する。根気の大切さを説いている。
1. 原文
子路問政。子曰、先之、勞之。請益。曰、無倦。
2. 書き下し文
子路(しろ)、政(まつりごと)を問う。子(し)曰(いわ)く、之(これ)に先(さき)んじ、之(これ)を労(ろう)す。益(えき)を請(こ)う。曰(いわ)く、倦(う)むこと無(な)かれ。
3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ)
- 「子路、政を問う」
→ 弟子の子路が、政治(人を治める道)について孔子に尋ねた。 - 「子曰く、之に先んじ、之を労す」
→ 孔子は答えた。「人々に先んじて行動し、自ら労苦を惜しまず働くことだ。」 - 「益を請う」
→ 子路はさらに尋ねた。 - 「曰く、倦むこと無かれ」
→ 孔子は答えた。「疲れてもあきらめるな。やり抜きなさい。」
4. 用語解説
- 政(まつりごと):政治・行政。ここでは「人を治める道、リーダーシップの在り方」を指す。
- 先んずる:模範として先頭に立つこと。言葉よりも行動で示すこと。
- 労す:労を取る、苦労する。部下の負担を分かち合う姿勢。
- 益を請う:さらに続きを尋ねる、追加の教えを願う。
- 倦む(うむ):疲れる、飽きる。心身の疲労からやる気を失う状態。
- 無倦:「倦むこと無かれ」は、意志を継続させることへの教え。たゆまぬ努力を意味する。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
子路が政治とはどうあるべきかを孔子に尋ねた。
孔子はこう答えた:
「人々の先頭に立って自ら率先して行動し、その上で人々のために苦労を惜しんではならない。」
子路がさらに教えを求めると、孔子はこう続けた:
「たとえ疲れても、くじけずに努力を続けよ。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、リーダーの本質を端的に説いたものであり、リーダーシップに不可欠な2つの徳目を明示しています:
- 率先垂範(そっせんすいはん):言葉で指示する前に、まず行動で示すこと。信頼と実行力の源。
- 不断の努力:疲れても投げ出さない、継続的な情熱と忍耐力が求められる。
孔子は、リーダーは「口先で命じる者」ではなく、「先頭で働く者」であり、しかも「くじけず続ける者」であれと説いています。
これは現代においても、組織運営やマネジメントにそのまま通用する不変の原理です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
- 「言うよりやる」──行動で引っ張るリーダーが信頼を得る
マネージャーが「やってみろ」と言うだけでなく、自分自身が現場で汗をかき、手本を示すと、部下の意識も変わる。 - 「労を共にすることで信頼が生まれる」
単に命令を出すのではなく、苦しい局面で共に汗を流す姿勢が、上司部下の垣根を越えた絆をつくる。 - 「諦めずに続ける力が成果を生む」
プロジェクトが困難に直面したとき、あきらめず継続する姿勢が結果を左右する。「無倦(あきらめるな)」は、現代の持続的なリーダーシップの心得でもある。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「率先して労し、倦まず貫く──“背中で語る”リーダーシップ」
この章句は、「模範」と「継続」の2つの力がリーダーを形づくるという孔子の信念を、極めて実践的に語っています。
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