── 感謝を述べるときこそ、まごころを込めて
孔子は、礼を尽くす際、決して形式に終わらず、真心を伴わせることを何よりも重んじていた。
他国へ使者を送り出すときは、深く二度頭を下げる「再拝(さいはい)」の礼で見送り、心からの敬意を込めて旅立ちを祝した。
また、魯の大夫・季康子から薬が贈られた際には、丁寧に拝礼してその薬を受け取った。
そして、こう語った。
「ありがとうございます。ただ、この薬が自分に合うかまだ確認が取れていません。医者などに相談してから飲もうと思っています。ですから、まだ口にしていませんが、お礼の気持ちは必ずお伝えください。」
この言葉に、孔子の人柄がにじむ。
いただいたことへの感謝をきちんと伝えつつ、実際にはまだ服用していないという事実も率直に述べる。
礼儀を守ると同時に、うわべに流されず、誠意と真実をもって相手と向き合う姿勢がそこにある。
原文とふりがな付き引用
「人(ひと)を他邦(たほう)に問(と)わしむるには、再拝(さいはい)して之(これ)を送(おく)る。康子(こうし)、薬(くすり)を饋(おく)る。拝(はい)して之を受(う)く。曰(いわ)く、丘(きゅう)、未(いま)だ達(たっ)せず。敢(あ)えて嘗(な)めず、と。」
注釈
- 再拝(さいはい):特別な敬意を込めた二度の拝礼。友人や高貴な相手に向けた誠実な礼。
- 饋(おく)る:贈る、もたらす。特に食べ物や薬などの贈り物を意味する。
- 未だ達せず:まだ確認や了解が得られていないこと。
- 敢えて嘗めず:相手への配慮と、自身の正直な判断とを併せ持った表現。
1. 原文
問人於他邦、再拜而送之。康子饋藥、拜而受之、曰、丘未達、不敢嘗。
2. 書き下し文
人を他邦(たほう)に問わしむるには、再拝(さいはい)して之(これ)を送る。康子(こうし)、薬を饋(おく)る。拝して之を受(う)く。曰(いわ)く、「丘(きゅう)、未(いま)だ達(たっ)せず。敢(あ)えて嘗(な)めず」と。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「人を他邦に問わしむるには、再拝して之を送る」
→ 他国へ人を遣わすとき、孔子は丁重に二度頭を下げて礼を尽くし、送り出した。 - 「康子、薬を饋る。拝して之を受く」
→ 康子が薬を贈ってくれたとき、孔子は礼をもって拝し、丁寧にそれを受け取った。 - 「曰く、丘未だ達せず。敢えて嘗めず」
→ そして孔子はこう言った。「私はまだ医薬に通じていない身です。ですから、軽々しく試しに口にすることはいたしません。」
4. 用語解説
- 問人(ひとをとう):人を派遣して、安否や様子などを尋ねさせること。
- 他邦(たほう):他の国・他の地方。
- 再拝(さいはい):両手を重ねて二度頭を下げる礼。非常に丁重な儀礼。
- 康子(こうし):魯の大夫、または権力者。孔子より地位の高い人物。
- 饋(おく)る:贈る。特に目上の者が目下に物を与える文脈で用いられる。
- 達せず:理解・習得・習熟していないこと。ここでは「医学的知識に通じていない」の意。
- 敢えて嘗めず:あえて口にしない。謙遜と慎重の姿勢を示す。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子は、他国へ人を遣わす際には、二度礼をして丁重に送り出した。
また、康子から薬を贈られたときには、感謝と敬意を込めて拝礼して受け取ったが、
「私は医学に通じておりませんので、軽々しく服用することはいたしません」と述べ、慎重な態度を示した。
6. 解釈と現代的意義
この章句では、孔子の他者への敬意・慎重さ・誠実な自己認識が表されています。
- 自分の代わりに他国に赴く者を礼を尽くして見送るのは、**「人を大切にする姿勢」**の象徴。
- 権力者から贈られた薬に対しても、安易にありがたがって飲むのではなく、**「自分が理解していないことには手を出さない」**という慎重な姿勢を貫いている。
- これらは「礼」と「節度」そして「自己認識と謙遜」の実践である。
7. ビジネスにおける解釈と適用
🙇♂️ 「人を任せるときは、敬意と責任を」
- 出張・代理・外部交渉に人を送るときは、丁重な依頼と感謝の気持ちを表すことが、信頼と成果に直結する。
- 形式的な命令ではなく、「送り出す態度」こそがリーダーの人格。
💊 「知識のないことに軽々しく手を出さない」
- 専門外の領域(例:法務・医療・財務)については、自らの無知を認め、慎重に扱う謙虚さと確認の姿勢が不可欠。
- 「達せず、敢えて試さず」は、誤った判断を防ぐ知的誠実さの姿勢。
📜 「形式に宿る“実質”を大切に」
- 再拝や拝礼のような行動は、「敬意のかたち」。現代でもメールの書き出し、挨拶、贈答の対応などに応用されるべき。
8. ビジネス用の心得タイトル付き
「人を敬し、自らを知る──“慎みと礼”が信頼を築く」
この章句は、「人に敬意を払い、自分の分をわきまえる」孔子の根本的な生き方を映し出しています。
自信過剰にならず、礼儀と慎重さをもって人と物事に向き合う――
この姿勢こそが、信頼される人物・組織の基盤となるのです。
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