孔子は、人として備えるべき三つの徳について、明快にこう語った。
「知者(ちしゃ)は迷わず、仁者(じんしゃ)は憂えず、勇者(ゆうしゃ)は恐れず。」
これは、知恵・思いやり・勇気という三つの力を磨くことによって、
人は心の安定と強さを手にすることができるという教えである。
- 知者は「道理」を知っているから、何が正しいかに迷わない。
- 仁者は「人の心」を思いやるから、くよくよと自分のことで悩まない。
- 勇者は「恐れを乗り越える力」を持つから、何事にもひるまない。
この三者は、それぞれ独立した力でありながら、相互に補い合い、人としての完成に近づくための柱となる。
「学び知る」「他者を思いやる」「一歩踏み出す」——
この三つを日々意識し続けることが、ぶれない人間力の土台を築いていくのだ。
原文(ふりがな付き)
「子(し)曰(いわ)く、知者(ちしゃ)は惑(まど)わず。仁者(じんしゃ)は憂(うれ)えず。勇者(ゆうしゃ)は懼(おそ)れず。」
注釈
- 知者(ちしゃ)…物事の本質を見抜く知恵を持つ人。判断力と洞察力がある。
- 仁者(じんしゃ)…思いやりと愛の徳を備えた人。他者を優先し、自分にとらわれない。
- 勇者(ゆうしゃ)…恐れに支配されず、正しいと信じることに行動できる人。
- 惑わず・憂えず・懼れず…それぞれ、「心が安定している」「内的な迷いがない」「恐怖に支配されない」状態。
原文:
子曰、知者不惑、仁者不憂、勇者不懼。
目次
書き下し文:
子(し)曰(いわ)く、知者(ちしゃ)は惑(まど)わず。仁者(じんしゃ)は憂(うれ)えず。勇者(ゆうしゃ)は懼(おそ)れず。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 知者は惑わず
→ 真の知恵ある者は、物事に迷わない。 - 仁者は憂えず
→ 思いやり深く徳のある人は、心配に囚われない。 - 勇者は懼れず
→ 真の勇気ある者は、何ものをも恐れない。
用語解説:
- 知者(ちしゃ):知識や判断力に優れ、理に通じた人。単なる情報量でなく、洞察力ある知恵者。
- 惑わず:混乱せず、迷わない。理に基づいて判断できる状態。
- 仁者(じんしゃ):思いやり、誠意、徳を備えた人格者。
- 憂えず:不安にかられない、心が穏やかでいること。
- 勇者(ゆうしゃ):危機を恐れず行動できる者。単なる無謀ではなく、正義に基づく行動力。
- 懼れず(おそれず):困難や危険に対して萎縮しないこと。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「知恵ある人は道理をわきまえて迷わない。
仁徳ある人は思いやりがあるゆえに心配にとらわれない。
そして勇気ある人は、恐れることなく行動する。」
解釈と現代的意義:
この章句は、理知・徳性・勇気という3つの人間的資質が、それぞれ
迷い・不安・恐怖に打ち勝つ力であることを示した、極めて深い人格論です。
- 「知」は判断力・洞察力を通じて迷いから解放される。
- 「仁」は誠実・共感・信頼を通じて心の不安を消す。
- 「勇」は行動・覚悟・信念を通じて恐怖に立ち向かう力となる。
孔子は、この3つの徳が人生やリーダーシップにおいて不可欠であると説いています。
ビジネスにおける解釈と適用:
1. 「知」のリーダーは混乱時に道を示す
- 不確実性の高い時代に、知識だけでなく「状況を読み解く力=知恵」が重要。
- 知者の冷静な判断は、チームを迷いから救う。
2. 「仁」のマネージャーは信頼と安心を与える
- 部下や顧客への思いやり、真摯な態度は、不安定な状況でも信頼を維持する。
- 仁者は「人を守る力」を持つ。
3. 「勇」の実行者が変革を起こす
- 言うだけでなく、恐れずに動く人が組織を前に進める。
- 勇者は「守るべきもののために、動ける人」である。
ビジネス用心得タイトル:
「迷わず、憂えず、恐れず──知・仁・勇が信頼をつくる」
この章句は、**リーダーシップの3本柱(判断力・共感力・行動力)**としても理想的な指針です。
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