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天が託した道なら、誰にも消せはしない

孔子が匡の地で、命の危険にさらされたときのこと。
弟子たちが不安に包まれる中、孔子は落ち着いて、力強くこう語った。

「文王は亡くなったが、彼の築いた文化は私の中に生きている。
もし天(てん)がこの文化を滅ぼすつもりなら、私がそれを学び、身につけることもなかっただろう。
私がその道を受け継いでいるということは、天がまだこの文化を必要としているということだ。
だから、たとえ匡の人々が私を殺そうとしても、天命がある限り、それはできない。」

これは、ただの楽観ではなく、自分の使命に対する絶対的な信念と覚悟の表れである。
真に天命を生きる者には、恐れるべきものはない。
何があろうとも「進むべき道を、正しく、まっすぐに歩む」——それが孔子の覚悟だった。

目次

原文

子畏於匡。曰、文王既沒、文不在乎。天之將喪斯文也、後死者不得與於斯文也。天之未喪斯文也、匡人其如予何。

書き下し文

子(し)、匡(きょう)に畏(おそ)る。曰(いわ)く、文王(ぶんおう)、既(すで)に没(ぼっ)し、文(ぶん)、在(あ)らずや。天(てん)の将(まさ)に斯(こ)の文(ぶん)を喪(ほろ)ぼさんとするや、後死(こうし)の者、斯の文に与(あずか)るを得(え)ざらしめん。天の未(いま)だ斯の文を喪ぼさざるや、匡人(きょうひと)、其(そ)れ予(われ)を如何(いかん)せん。

現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 子、匡に畏る。
     → 孔子は匡という地で危険に遭遇して恐れた。
  • 曰く、文王既に没し、文在らずや。
     → 孔子は言った。「周の文王はすでに亡くなったが、その“文(文化・礼)”は残っていないのだろうか。」
  • 天の将に斯の文を喪ぼさんとするや、後死の者、斯の文に与るを得ざらしめん。
     → 「もし天がこの“文”を滅ぼそうとしているなら、私のような後世の者がこの文に関わることもできなくなるだろう。」
  • 天の未だ斯の文を喪ぼさざるや、匡人其れ予を如何せん。
     → 「だが、天はまだこの文を滅ぼそうとしていない。であれば、匡の人々は私に何ができようか。」

用語解説

  • 匡(きょう):魯の国の東方、孔子が旅の途中で騒動に巻き込まれた土地。危険に遭った場所。
  • 畏る(おそる):恐怖・危機感を覚えること。
  • 文王(ぶんおう):周王朝の開祖の一人。儒家において理想的な聖王とされる。
  • 文(ぶん):礼・文化・道徳体系など。文明的秩序や理想。
  • 喪ぼす(ほろぼす):失う、滅ぼす。
  • 後死の者:文王の後の世に生まれた人。つまり孔子自身を指している。
  • 如何せん(いかんせん):どうしようか、何ができようか、の意味。反語的表現。

全体の現代語訳(まとめ)

孔子は匡の地で命の危機を感じたとき、こう語った:

「周の文王はすでに亡くなったが、その遺した文化(礼や徳)はまだ天によって守られている。
もし天がこの文化を完全に滅ぼそうとしているなら、私のような後世の人間がこれに関わることはないだろう。
だが、天はまだそれを滅ぼしていない。であれば、匡の人々に私をどうこうすることなどできはしない。」

解釈と現代的意義

この章句は、孔子の天命観と使命感、そして困難における信念を表しています。

孔子は死の危険に直面しても、「自分は“文”=文化と道徳を伝える天の意志に従って行動しているのだから、天がそれを止めていない以上、私は守られるはずだ」と信じました。

つまりこの場面は、運命への信頼と使命の自覚、そして揺るがぬ内なる確信の象徴なのです。

ビジネスにおける解釈と適用

1. 「使命感」は困難を乗り越える最大の武器

  • 組織変革や起業など、逆風に晒される時こそ、「自分は何のためにこれをしているか」を問うべき。
  • 孔子のように「文化を伝える」という高次の目的がある者は、困難にも耐える力を持つ。

2. 信念は外圧に左右されない「内なる羅針盤」

  • 周囲が理解しなくても、「これは正しい」と確信できるビジョンがあれば、行動に一貫性が出る。
  • 短期の評価や誤解に動じず、正しいことを続ける勇気がリーダーには必要。

3. “天がまだ喪ぼさざる”という視座=ポジティブな可能性思考

  • 問題があるように見えても、「本質的な価値が失われていない限り、自分の行動は意味を持つ」という見方。
  • これにより「今ある資源」「見えない支え」に目を向け、行動を止めない姿勢が育つ。

まとめ

「使命がある限り、試練は越えられる──“天未だ文を喪ぼさず”の信念」

この章句は、信念あるビジョンと“文化を守る者”としての自負を持つリーダーや実践者に大きな勇気を与えてくれます。

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