孔子は、自らを「創造者」とはせず、むしろ古典や歴史の伝統に学び、それを現代に伝える「継承者」であると語った。
過去の知の蓄積を信じ、それを愛し、そこから現在に通じる道理を引き出すこと――それが孔子の学問の根幹だった。
殷の時代に古典や歴史に親しんだ賢者・老彭のように、知を敬い、時を越えて学ぶ姿勢が、人を磨く。
原文・ふりがな付き引用
子(し)曰(い)わく、述(の)べて作(つく)らず、信(しん)じて古(いにしえ)を好(この)む。窃(ひそ)かに我(われ)を老彭(ろうほう)に比(ひ)す。
注釈
- 述べて作らず … 自ら創作するのではなく、先人の教えを誠実に受け継ぎ語ること。
- 信じて古を好む … 昔の知恵を信頼し、敬意をもって学び続ける姿勢。
- 老彭(ろうほう) … 殷の時代の賢者。歴史や古典を重んじた人物として、孔子が私淑した存在。
- 窃かに比す … 自分を密かに重ねる、理想とする人の姿に自身をなぞらえる謙虚な姿勢。
1. 原文
子曰、述而不作、信而好古、竊比於我老彭。
2. 書き下し文
子(し)曰(いわ)く、述(の)べて作(な)さず、信(しん)じて古(いにしえ)を好(この)む。窃(ひそ)かに我(われ)を老彭(ろうほう)に比(ひ)す。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「子曰く、述べて作らず」
→ 孔子は言った。「私は自分で新しいことを作るのではなく、過去の教えを述べ伝えているだけである。」 - 「信じて古を好む」
→ 「私は昔の教えを信じ、古の知恵を愛している。」 - 「窃かに我を老彭に比す」
→ 「私は密かに自分を古代の賢人“老彭”になぞらえている。」
4. 用語解説
- 述べて作らず(のべてつくらず):自ら創作・創案するのではなく、古の道を忠実に継承し伝えるという姿勢。
- 信(しん)じて古(いにしえ)を好(この)む:古典や伝統を疑わずに受け入れ、心から愛すること。
- 窃かに(ひそかに):あからさまにではなく、密かに、心の中で。
- 老彭(ろうほう):古代中国の伝説的な賢人。周の時代以前の理想的な人物の象徴で、長寿と徳を兼ね備えた人物とされる。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう言いました:
「私は新しい学説を創り出すのではなく、古の聖人たちの教えを忠実に語り伝えているだけだ。そして、その古の教えを信じて深く愛している。内心では、自分を古代の賢者“老彭”になぞらえている。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、孔子の教育姿勢と知への謙虚な向き合い方を示しています。
彼は自己主張や独創性よりも、普遍的な価値を見出して受け継ぐ姿勢を重視しました。
現代においても、先人の知恵や実績を尊重し、それを土台に学ぶことの重要性を説いている章句です。とりわけ、謙虚にして高潔な知性のあり方、そして自らを律して学び続ける姿勢に学ぶべき点が多くあります。
7. ビジネスにおける解釈と適用
■「独創」よりも「継承」に価値を置くリーダーシップ
イノベーションが叫ばれる時代にあっても、組織文化や歴史的な知見を大切に守り伝える役割を果たすリーダーは必要です。
■「型を守る」ことで基礎力と信頼を築く
業務マニュアルや伝統的なやり方をただ古いと否定せず、意味と背景を理解し、改善の基礎とする姿勢が「信じて古を好む」精神に通じます。
■「独りよがりの創造」より「普遍性の継承」
顧客対応・商品開発・経営理念においても、自分だけのアイデアに固執するのではなく、他者の知恵を取り入れた“守破離”の姿勢が成功を導く。
8. ビジネス用心得タイトル
「革新は“継承”の先にある──古に学ぶ謙虚なリーダーシップ」
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