言葉や態度が上手でも、心と一致していなければ、真の礼ではない
孔子は次のように言った。
「言葉巧みに愛想よく振る舞い、顔には作り笑い、態度は過度に丁寧――
そういう“礼の仮面”を、私は尊敬する左丘明(さきゅうめい)と同じく、恥ずべきものと思っている。
また、心の中ではその人を恨み、敵意を持っていながら、表面上は友人のように振る舞う――
そのような偽りの友情も、私も左丘明と同様に、深く恥じている」と。
ここに示されているのは、礼儀や友好の形式よりも、内心の誠実さと一致しているかどうかが大切だという儒教の根本的価値観。
孔子は、口先の礼や空虚な社交を「偽り」と見なし、それを「恥」として明確に否定している。
本当に人を敬い、友とするならば、心が伴っていなければならない――これは現代における人間関係にも深く通じる教えである。
原文とふりがな付き引用
子(し)曰(いわ)く、巧言(こうげん)、令色(れいしょく)、足(す)く恭(うやうや)なるは、左丘明(さきゅうめい)之(これ)を恥(は)ず。丘(きゅう)も亦(また)之を恥ず。
怨(うら)みを匿(かく)して其(そ)の人を友(とも)とするは、左丘明之を恥ず。丘も亦之を恥ず。
人に対して心にもない礼を尽くすより、
心と行いを一致させることの方が、よほど礼にかなっている。
注釈
- 巧言(こうげん)…口先だけの美辞麗句。相手に気に入られようとする言葉の飾り。
- 令色(れいしょく)…作り笑顔や取り繕った顔つき。
- 足恭(すうきょう)…過度に丁寧すぎる態度。表面上だけのうやうやしさ。
- 左丘明(さきゅうめい)…孔子の先輩で、歴史書の編纂者とされる高徳の人。孔子が「敬する人」の代表として何度か引用する人物。
- 丘(きゅう)…孔子の本名「孔丘(こうきゅう)」の名乗り。自らを第三者として述べることで、謙虚さと決意を込めている。
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