他人に知られることより、自分を磨くことを優先せよ
孔子は、まだ地位が得られないことや他人に評価されないことを嘆くのではなく、「自分がその地位にふさわしい人物か」「評価されるだけの中身を備えているか」を問うべきだと説いた。
名声や肩書は追い求めるものではなく、実力と人格が整えば自然と備わるものである。
逆に、中身が伴わないまま評価を求めるのは、自らを見失うもとになる。
本当に大切なのは、どんな立場に置かれても恥じない「立つ所以(ゆえん)」――人間としての力と信念――を築くこと。孔子の教えは、自己確立と静かな努力の尊さを示している。
地位がないことや評価されないことを嘆くのではない。
ふさわしい人格を育て、知られるだけの行いを積めばよいのだ。
原文
子曰、不患無位、患所以立。不患莫己知、求爲可知也。
書き下し文
子(し)曰(いわ)く、位(くらい)無(な)きを患(うれ)えず、立(た)つ所以(ゆえん)を患う。
己(おのれ)を知(し)ること無きを患えず、知らるべきを為(な)すを求む。
現代語訳(逐語・一文ずつ)
- 「位無きを患えず、立つ所以を患う」
→ 地位や役職がないことを嘆くのではなく、その地位にふさわしい実力・人格が自分にあるかを気にせよ。 - 「己を知ること無きを患えず、知らるべきを為すを求む」
→ 他人に知られない(評価されない)ことを悩むのではなく、認められるにふさわしい行いを心がけよ。
用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
位(くらい) | 地位・身分・役職などの社会的ポジション。 |
患う(うれう) | 心配する、気に病む、嘆く。 |
所以立つ(ゆえん) | 立身・立場を築く理由や資質。 |
知らる(しらる) | 他人に認められること。 |
知らるべきを為す | 他人から正当に評価されるような行動・努力・人格を備えること。 |
全体の現代語訳(まとめ)
孔子はこう語った:
「地位がないことを悩むのではなく、その地位にふさわしい実力を持っているかどうかを気にしなさい。
また、他人に認められないことを嘆くのではなく、認められるだけの行動や人格を身につける努力をしなさい」
解釈と現代的意義
この章句は、**「評価や立場を他人に求める前に、自分を磨け」**という孔子の自己修養の核心を説いています。
- 社会的地位・名声・他者評価は本質的ではなく、その人の徳・行い・実力が最も重要。
- 本当に備えていれば、いずれ評価はついてくる。
→ 逆に、備えていないのに地位や名声を求めるのは順序が逆である。 - 孔子の“君子論”と一貫し、内面の成熟が外面の成功を導くという哲学を表現しています。
ビジネスにおける解釈と適用
「肩書より“中身”を磨け──立場にふさわしい人物であるかが問われる」
- 昇進・昇給・認知を焦るのではなく、そのポジションにふさわしい人間かどうかを自問すべき。
- 成果より、人格と能力の備えこそが信頼を築く基礎。
「他者評価は結果、“知らるべき人”である努力を惜しまない」
- アピールや外見ではなく、誠実な仕事・貢献・協働によって自然に評価される。
- 「なぜ評価されないのか」ではなく、「評価に足る行動をしているか」を考える視点が重要。
「職位を得るのではなく、“立場を築く”ことが大切」
- ポストに就いても、その人物に「所以(ゆえん)=立つ理由」がなければ、組織は納得しない。
- 孔子は、“職位”ではなく“実力と人格”を土台に立つべきだと説いている。
まとめ
「求めるな、備えよ──地位より、地位にふさわしい自分を築け」
〜評価される人は、“知らるべき人”であろうと努力している〜
この章句は、現代社会においても極めて実践的な教訓です。
**「認められたい」と願うより、「認められるだけの行動をする」**ことこそが、真の成長と信頼につながります。
昇進・評価・自己実現に悩むすべての人にとって、自己修養と努力こそが王道であるという孔子の声が、ここに力強く響いています。
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