決めつけず、ただ正しさに従って判断すること
孔子は、君子――すなわち理想的な人格者――とは、何事においても「こうでなければならない」「こうしてはいけない」と頑なに決めつけない人だと説いた。
君子は物事にあたって、状況や文脈に応じて柔軟に考え、常に「義(正しさ)」に照らして行動を選ぶ。
つまり、好みやこだわり、習慣的な判断に縛られるのではなく、その時々の是非を見極める目と、しなやかに行動を変える胆力をもつ。
どちらかに偏らず、しかし節操を失うこともなく、「義を基準に生きる」というのが君子の知恵である。
原文とふりがな付き引用
子(し)曰(いわ)く、君子(くんし)の天下(てんか)に於(お)けるや、適(てき)無(な)きなり、莫(ばく)無きなり。
義(ぎ)、之(これ)と与(とも)に比(ひ)す。
君子は、「こうすべき」「こうしてはいけない」と決めつけない。
ただ義に基づいて、是か非かを選ぶのみである。
注釈
- 君子(くんし)…人格的に成熟し、徳をもって生きる理想的な人物。
- 適無きなり(てきなきなり)…「必ずこうしよう」という決めつけを持たない。柔軟であることを指す。
- 莫無きなり(ばくなきなり)…「必ずこうしない」という否定のこだわりを持たない。偏見の排除。
- 義(ぎ)…正義、道義、その場にふさわしい正しい判断。個人的な好みとは異なる倫理的判断基準。
- 之と与に比す(これとともにひす)…義を判断の基準として採用し、行動を決める。
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