本来敬うべきでないものを祭るのは、真心からの敬意ではなく、ご利益を求めた卑しいへつらいにすぎない。
また、やるべきこと、正しいことが目の前にあるにもかかわらず、見て見ぬふりをするのは、臆病で勇気がない証拠である。
真の勇とは、義に気づいたときに迷わず行動する心。行動を起こさぬ者は、知っていながら背を向けた者であり、誠実でも、強くもない。
信じぬものに祈るな。義を見て動かぬな。誠と勇が伴わなければ、それは空虚なふるまいにすぎない。
原文:
「子曰、非其鬼而祭之、諂也。見義不為、無勇也。」
書き下し文:
「子(し)曰(いわ)く、其(そ)の鬼(き)に非(あら)ずして之(これ)を祭(まつ)るは、諂(へつら)いなり。義(ぎ)を見(み)て為(な)さざるは、勇(ゆう)無(な)きなり。」
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「子曰く、其の鬼に非ずして之を祭るは、諂いなり」
→ 孔子は言った。「自分の先祖でない霊(=他人の神霊)を祭るのは、へつらいにすぎない。」 - 「義を見て為さざるは、勇無きなり」
→ 「正しいとわかっていながら、それを行わないのは、勇気がないからである。」
用語解説:
- 鬼(き):ここでは「死者の霊」=祖先霊や神霊のこと。
- 非其鬼(その鬼に非ず):自分の家系や縁に属さない他人の霊。
- 祭る(まつる):供物や祈りを捧げて敬意を表す儀式。古代中国では社会秩序と密接に関わる行為。
- 諂い(へつらい):本心ではなく、相手に気に入られるための虚偽の行為。ごますり。
- 義(ぎ):道徳的に正しいこと、なすべきこと。
- 勇(ゆう):行動力を伴う勇気、正義を貫くための力。
全体の現代語訳(まとめ):
孔子はこう言った:
「自分の先祖でもない他人の霊をお祭りするのは、ただのご機嫌取りであって、誠実な行為とは言えない。
また、正しいことだとわかっていながら、それを行わないのは、勇気がないからに他ならない。」
解釈と現代的意義:
この章句は、「誠実さ」と「勇気」の倫理的価値について、孔子が明確に述べたものです。
- 形式的に“よく見せる”ことではなく、内面の誠実さと行動が重要。
- 第一文は「表面的な信心・過剰なご機嫌取り」を戒める言葉。
- 第二文は「正しいと分かっているのに行動しない人間は勇気がない」と、思考と行動の不一致を批判しています。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「誠意なき“忖度”や“へつらい”は信頼を損なう」
- 自分に関係のないプロジェクトや上司に、中身のない形だけの賛同や演出をする行為は、真に信頼を得る行動とは言えない。
- リーダーは、“耳障りのよい嘘”より“誠実な沈黙”を評価すべき。
- 「正しいと知りながら動かない人材は、組織を腐らせる」
- 不正・不公平・不効率を見ても、「面倒だから」「波風立てたくないから」と黙認する姿勢は、勇気なき姿勢=職業倫理の欠如。
- 真に価値ある社員とは、行動を伴う信念と勇気を持った人材。
- 「勇気とは、行動によって正義を貫く力」
- 現場の声を代弁する、顧客の不満を率直に伝える、困難な判断を下す──これらはすべて「義を見て為す勇」である。
ビジネス用心得タイトル:
「へつらいより誠、傍観より行動──“義を貫く勇気”が信頼と成果を生む」
この章句は、“倫理的な信頼”と“行動する勇気”こそが、人格あるリーダーや信頼される人材の基礎であることを、孔子らしい簡潔さで説いています。
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