仕事で評価されたいなら、まず学びを深めること。
多くのことを聞き、疑わしいことは避けて、確信の持てることだけを言う。多くのものを見て、危ういものは排除し、慎重に行動する。そうすれば、誤りも後悔も減り、人からの非難を受けることも少なくなる。
結果として、人望も評価も高まり、報酬や地位は自然とあとからついてくる。
評価されようと焦らず、誠実に学び、考え、行動すること。その積み重ねが、報われる道を自然と開く。
原文:
「子張學干祿。子曰、多聞闕疑、愼言其餘、則寡尤。多見闕殆、愼行其餘、則寡悔。言寡尤、行寡悔、祿在其中矣。」
書き下し文:
「子張(しちょう)、禄(ろく)を干(もと)むるを学ばんとす。子(し)曰(いわ)く、多(おお)く聞(き)きて疑(うたが)わしきを闕(か)き、慎(つつし)みて其(そ)の余(よ)を言(い)えば、則(すなわ)ち尤(とが)め寡(すく)し。多く見(み)て殆(あや)うきを闕き、慎みて其の余を行(おこな)えば、則ち悔(く)い寡し。言(い)って尤め寡く、行(おこな)って悔い寡ければ、禄(ろく)その中(なか)に在(あ)り。」
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「子張、禄を干むるを学ばんとす」
→ 子張が、官職や報酬(=禄)を得る方法を学ぼうとした。 - 「多く聞きて疑わしきを闕き」
→ 多くのことを聞き、よくわからない部分は無理に断定せず除き、 - 「慎みて其の余を言えば、則ち尤め寡し」
→ 残りの確かなことだけを慎重に話すようにすれば、非難されることは少ない。 - 「多く見て殆うきを闕き」
→ 多くを見聞きし、危険なこと・不確かなことは避けて、 - 「慎みて其の余を行えば、則ち悔い寡し」
→ 残りの安全なことだけを慎重に行えば、後悔は少ない。 - 「言って尤め寡く、行って悔い寡ければ、禄その中に在り」
→ 言葉に非がなく、行動にも悔いがなければ、報酬(=人からの評価・職・給与)は自然と得られるのだ。
用語解説:
- 子張(しちょう):孔子の弟子の一人。上進心・野心が強く、現実的な人物。
- 干禄(かんろく):官職や収入(禄)を得ようとすること。出世・成功を望むこと。
- 闕く(かく):省く、避ける。疑わしい部分・危うい部分を除く。
- 慎む(つつしむ):注意深くふるまう。慎重に対応すること。
- 尤(とが)め:非難、誤り。
- 悔(く)い:後悔、失敗による反省。
全体の現代語訳(まとめ):
子張が出世や報酬を得る方法を学びたいと願ったとき、孔子はこう答えた:
「多くのことを聞いて、あいまいな部分は避け、確かなことだけを慎重に語るようにすれば、過ちや非難は少なくなる。
また、多くのことを見て、危険な行動は避け、確実なことだけを慎重に行えば、後悔も少なくなる。
言葉に過ちが少なく、行動にも悔いがなければ、禄(報酬)は自然と得られるものだ。」
解釈と現代的意義:
この章句は、**「功名(成功)を求めるなら、まず言動において過ちを減らせ」**という孔子の実践的かつ倫理的なアドバイスです。
- 「禄を得る」=評価・地位・成果を得たいという動機を否定せず、それに対する具体的な知恵と人格的態度を示している。
- 成功の本質は、正確な判断・誠実な言動・慎重な行動にあり、それを積み重ねた人にこそ報いは自然に与えられるという考え。
- この姿勢は、現代の「成果主義」や「実力主義」とも親和性がありながら、内面的な節度と判断力を土台とした健全な成功観を説いています。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「正確に聞き、慎重に語れ」
- 情報の取り扱いやプレゼン・会議発言において、事実確認が曖昧なまま発言することはリスク。
- 明確にわかっていることを、丁寧に・慎重に表現する姿勢が信頼を得る。
- 「観察して危険を避け、慎重に行動せよ」
- 行動においても、見切り発車や勢い任せを避け、危険を察知して動くことが、失敗や後悔を減らす。
- 「即断即決」の裏には「冷静な情報整理と優先判断」があるべき。
- 「言動に過ちが少ない人が評価される」
- 周囲からの信頼・昇進・成功は、実績だけでなく、日々の慎み深い言動が下支えしている。
- つまり、“慎重で誠実なふるまい”こそが最大の成功戦略。
ビジネス用心得タイトル:
「慎言・慎行が成功を導く──“禄”は誠実さと精度の中に宿る」
この章句は、キャリアアップや信頼構築において、日々の姿勢こそが最も大きな影響力を持つという、現代でも通用する普遍的な教えです。
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