怒りが込みあげたとき、心は激しく揺れ動く。
思わず声を荒げ、誰かを責め、時には自分さえも傷つけてしまう。
だがその怒りの根には、**満たされなかった「欲望」**がある。
「もっと大切にされたい」
「わかってもらいたい」
「認めてもらいたい」
こうした**カーマ(欲望)**があるからこそ、
それが叶わないときに怒り(クローダ)としてあふれ出す。
『バガヴァッド・ギーター』をはじめとするインド哲学では、
この「欲望(カーマ)」を頂点とする6つの心の敵があると説かれる。
人を内側から蝕む6つの敵(シャッド・リプ)
- カーマ(欲)
もっと欲しい、もっと得たいと求める心。
満たされることがなく、終わりなき追求を生む。 - クローダ(怒)
欲が妨げられたときに噴き出す反応。
冷静な判断を奪い、破壊へと向かわせる。 - ローバ(貪)
手に入れてもまだ足りないとし、さらに欲しがる心。
満足を知らず、安心を知らない。 - モーハ(迷い・執着)
一時的な快楽や感情にとらわれ、本質を見失うこと。
何が大切か、見極めがつかなくなる。 - マダ(慢)
自分は優れていると奢り、他を見下す心。
真の学びを遠ざけ、孤立を深める。 - マーツァリヤ(嫉妬)
他者の成功や幸福を妬む心。
祝福を分かち合えず、自らを貧しくする。
これらはすべて、外からもたらされたものではない。
**「自分の内にある心のはたらき」**である。
だからこそ、真の敵は他者ではなく、自らの内側にこそ存在している。
それらを退ける唯一の方法は、欲望を見つめ、コントロールすること。
欲があることが問題なのではない。
欲に支配されて生きることが、苦しみを育ててしまうのだ。
怒りを鎮めようとして怒りを押し込めても意味はない。
その根にある欲望に気づき、
「本当にそれが必要なのか?」と問い直すことから始める。
敵を知り、敵と距離を取り、敵を超えること。
それが、内なる平和を築く第一歩である。
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