製造業の財務諸表には損益計算書、貸借対照表、製造原価報告書があります。このうち、工業簿記で特に注目されるのは製造原価報告書ですが、ここでは損益計算書と貸借対照表における製造業特有の点を説明します。
1. 損益計算書の形式
製造業の損益計算書は、商品売買業の損益計算書と似ていますが、一部の項目名や構成が異なります。
主な違い
- 売上原価の計算
- 製造業では、売上原価が「当期製造原価」を基に計算されます。
- 売上原価の内訳に「期首製品棚卸高」や「期末製品棚卸高」が含まれる。
売上原価の構成
期首製品棚卸高
+ 当期製造原価(製造原価報告書から取得)
- 期末製品棚卸高
= 売上原価
損益計算書の例
売上高 10,000円
売上原価:
期首製品棚卸高 1,000円
当期製造原価 6,500円
期末製品棚卸高 (1,500円)
売上原価合計 6,000円
売上総利益 4,000円
販売費及び一般管理費 2,000円
営業利益 2,000円
営業外収益 100円
営業外費用 50円
経常利益 2,050円
特別利益 30円
特別損失 20円
税引前当期純利益 2,060円
法人税等 1,000円
当期純利益 1,060円
2. 貸借対照表の形式
製造業の貸借対照表は、商品売買業と基本的には同じですが、製造業特有の資産項目が追加されます。
製造業特有の項目
- 材料
- 未使用の原材料の期末在庫。
- 仕掛品
- 加工途中の製品(未完成品)の期末在庫。
- 製品
- 完成したが未販売の製品の期末在庫。
資産の部の例
流動資産:
現金及び預金 2,000円
売掛金 3,000円
材料 800円
仕掛品 1,200円
製品 2,500円
固定資産 10,000円
資産合計 19,500円
貸借対照表の例
資産の部:
流動資産 9,500円
固定資産 10,000円
資産合計 19,500円
負債の部:
流動負債 5,000円
固定負債 2,500円
負債合計 7,500円
純資産の部:
資本金 5,000円
資本剰余金 2,000円
利益剰余金 4,000円
純資産合計 11,000円
負債純資産合計 19,500円
3. 商品売買業との主な違い
項目 | 商品売買業 | 製造業 |
---|---|---|
損益計算書の構成 | 売上原価は仕入原価のみ | 当期製造原価+棚卸調整を含む |
貸借対照表の資産 | 商品 | 材料、仕掛品、製品 |
製造原価報告書 | 作成不要 | 製造原価を詳細に報告する必要がある |
まとめ
製造業の損益計算書と貸借対照表は、商品売買業と基本的な構造は同じですが、製造業特有の項目(材料、仕掛品、製品、当期製造原価)を反映させる点が異なります。特に、製造原価の計算と棚卸調整が損益計算書に大きな影響を与えるため、これらを正確に処理することが重要です。
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