「英米式決算法」は、簿記や会計の学習で登場する決算手法の一つで、特に海外での財務報告や経営分析の際に利用されます。本記事では、英米式決算法の基本的な特徴、仕組み、日本式決算法との違いについて詳しく解説します。
英米式決算法とは?
英米式決算法とは、企業の損益計算を行う際に、収益と費用を直接対応させる方法です。この決算法では、期間中に発生した取引を「収益」と「費用」に分けて処理し、決算時に損益を確定させます。
特徴
- 収益と費用の直接対応
収益に対応する費用を直接差し引いて利益を計算します。 - 簡潔な決算手法
日本式決算法(分記法)と比べ、帳簿の整理や計算が簡潔です。 - 在庫や資産の調整
必要に応じて、決算時に在庫や固定資産の評価調整を行います。
英米式決算法の仕組み
英米式決算法では、期間中の取引を「損益勘定」で処理します。以下の流れで損益を確定します:
1. 収益と費用の計上
期間中に発生した収益と費用を「損益勘定」に記録します。
2. 損益の計算
収益から費用を差し引いて、当期の純利益を算出します。
[
\text{純利益} = \text{収益合計} – \text{費用合計}
]
3. 決算整理
期末時点での棚卸資産や未払費用、未収収益などを調整して、最終的な損益を確定します。
英米式決算法の具体例
以下に、英米式決算法を用いた損益計算の具体例を示します。
条件
- 収益(売上高):1,200,000円
- 費用(売上原価、販売費など):900,000円
- 期末棚卸高:100,000円
計算:
- 収益と費用の差額を計算:
[
\text{粗利益} = \text{収益} – \text{費用} = 1,200,000円 – 900,000円 = 300,000円
] - 決算整理(棚卸資産の調整)を反映:
棚卸資産の評価増がある場合、それを費用から控除。
仕訳例
- 期間中の収益と費用を損益勘定に計上:
(借方)費用 900,000円
(貸方)収益 1,200,000円
- 棚卸資産の評価調整を反映:
(借方)棚卸資産 100,000円
(貸方)費用 100,000円
英米式決算法と日本式決算法の違い
項目 | 英米式決算法 | 日本式決算法 |
---|---|---|
基本概念 | 収益と費用を直接対応 | 資産・負債を分けて記録 |
決算整理の手間 | 比較的少ない | 棚卸や振替処理が多い |
適用範囲 | 欧米諸国で一般的 | 日本企業で主に使用 |
帳簿の構造 | 簡素でシンプル | 詳細な仕訳が必要 |
英米式決算法のメリットとデメリット
メリット
- 簡潔な処理
帳簿の整理が簡単で、決算作業の負担が軽減されます。 - 収益性の把握が容易
収益と費用を直接対応させるため、期間中の収益性が明確に把握できます。 - 国際基準との親和性
国際的な会計基準(IFRSなど)に準拠しやすい。
デメリット
- 詳細な記録が困難
資産や負債の詳細な管理には向いていません。 - 在庫管理の手間
棚卸資産の評価調整を正確に行う必要があります。 - 日本の会計慣行との違い
日本式決算法を採用している企業では、慣れるまでに時間がかかる場合があります。
実務での英米式決算法の活用
英米式決算法は、特に以下のような場合に適しています:
- 小規模企業やスタートアップ
決算作業を効率化し、シンプルな帳簿管理を行いたい場合。 - 国際取引を行う企業
欧米諸国の取引先との会計基準を統一したい場合。 - 短期的な収益性分析
当期の収益と費用を迅速に把握し、経営判断に活用したい場合。
まとめ
英米式決算法は、収益と費用を直接対応させるシンプルで効率的な会計処理方法です。特に国際基準に対応する必要がある場合や、迅速な決算が求められる場面で役立ちます。一方で、資産や負債の詳細管理が必要な場合には、日本式決算法との併用や補足が求められることもあります。
簿記や会計を学ぶ際には、この手法の仕組みを理解し、実務に応用できるスキルを身につけましょう!
英米式決算法による帳簿の締切方法(3級)
英米式決算法では、決算時に収益・費用の各勘定をゼロにし、当期純利益(または当期純損失)を繰越利益剰余金勘定に振り替えることで帳簿を締め切ります。その後、資産・負債・純資産の勘定を次期に繰り越します。以下にその流れを具体的に解説します。
帳簿の締切の流れ
- 収益・費用の各勘定残高を損益勘定に振り替える
- 収益・費用は当期の損益計算書作成のために使用されるため、次期には関係ありません。
- 各勘定残高を損益勘定に振り替えてゼロにします。
- 当期純利益(または当期純損失)を繰越利益剰余金勘定に振り替える
- 損益勘定に集めた収益と費用から当期純利益(または損失)を計算し、それを繰越利益剰余金勘定に振り替えます。
- 資産・負債・純資産の各勘定を締め切る
- 資産・負債・純資産の勘定残高を次期に繰り越すため、「次期繰越」と記入します。
手順の詳細
1. 収益・費用の各勘定残高を損益勘定に振り替える
- 収益勘定の処理: 収益の各勘定残高は損益勘定の貸方に振り替える。
- 費用勘定の処理: 費用の各勘定残高は損益勘定の借方に振り替える。
仕訳例(収益: 売上高、費用: 仕入高の場合)
借方: 売上高 100,000円
貸方: 損益勘定 100,000円
借方: 損益勘定 80,000円
貸方: 仕入高 80,000円
2. 当期純利益(または当期純損失)を繰越利益剰余金勘定に振り替える
損益勘定に集計された収益と費用の差額が当期純利益(または損失)になります。
- 当期純利益の場合: 繰越利益剰余金勘定の貸方に振り替える。
- 当期純損失の場合: 繰越利益剰余金勘定の借方に振り替える。
仕訳例(当期純利益が20,000円の場合)
借方: 損益勘定 20,000円
貸方: 繰越利益剰余金 20,000円
仕訳例(当期純損失が20,000円の場合)
借方: 繰越利益剰余金 20,000円
貸方: 損益勘定 20,000円
3. 資産・負債・純資産の各勘定を締め切る
資産・負債・純資産の各勘定残高は、次期に繰り越すため、その差額を「次期繰越」として記入します。
- 勘定の貸借差額を計算し、「次期繰越」を記入。
- 借方合計と貸方合計を記入して一致を確認。
- 「次期繰越」と逆側に次期帳簿開始時に「前期繰越」として記入。
記入例(現金勘定に10,000円がある場合)
現金勘定(資産勘定)
---------------------------------
借方 貸方
次期繰越 10,000円 合計 10,000円
---------------------------------
合計 10,000円 前期繰越 10,000円
英米式決算法の特徴
- 収益・費用勘定のゼロ化
翌期に持ち越さないため、必ずゼロに締め切ります。 - 損益勘定を利用
収益と費用を一括管理し、当期純利益(損失)を計算します。 - 資産・負債・純資産は繰越
貸借対照表に記載される勘定は、次期にも引き継がれます。
まとめ
英米式決算法では、収益・費用勘定を損益勘定に振り替え、当期純利益(または損失)を繰越利益剰余金に移動します。その後、資産・負債・純資産勘定を次期に繰り越す形で帳簿を締め切ります。この流れは、簿記3級試験の基礎として重要です。
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