個別原価計算は、特定の製品や注文ごとに発生した原価を計算する原価計算手法です。
この手法は、多品種少量生産や受注生産を行う企業で広く活用され、各製品やプロジェクトの収益性を正確に把握するために重要です。
本記事では、個別原価計算の定義、特徴、計算方法、メリット・デメリット、活用例について詳しく解説します。
個別原価計算とは?
個別原価計算とは、製品やプロジェクトごとに発生した費用を直接追跡し、原価を計算する方法です。各注文や製品ごとに原価計算を行い、それに基づいて価格設定や収益性分析を行います。
個別原価計算は、受注生産形態に適用される原価計算方法であり、顧客ごとの注文に基づき製品の原価を計算します。
主な適用場面
- 多品種少量生産:製品ごとに異なる特性を持つ生産形態。
- 受注生産:顧客の注文に応じて製品やサービスを提供する場合。
- プロジェクト単位:建設業やシステム開発業など、特定のプロジェクトに基づいて作業が進む場合。
個別原価計算の特徴
1. 特徴
- 適用場面: 顧客からの注文に応じて製品を製造する受注生産型の生産形態。
- 目的: 注文ごとに発生する原価を正確に把握し、製品別の採算性を分析。
- 製品や注文ごとの原価管理
- 製品単位やプロジェクト単位で直接費と間接費を計算します。
- 受注ごとの収益性分析が可能
- 各製品や注文ごとに利益を分析し、収益性を評価します。
- コスト追跡が詳細
- 材料費や労務費を直接追跡し、間接費は適切な基準で配賦します。
2. 製造指図書と原価計算表
(1) 製造指図書
顧客の注文内容を記載し、製品製造の指示を行う文書。
内容
- 注文番号
- 製品の仕様(サイズ、デザイン、数量など)
- 製造期限
工場での使用
製造指図書を基に、製品の製造工程が開始される。

(2) 原価計算表
製造指図書ごとに発生した原価を集計するための表。
内容
材料費、労務費、経費を分類して集計。
製造指図書ごとに原価を記録。
目的
原価計算表に基づき、製品ごとの原価を正確に算出。

3. 個別原価計算の流れ
- 顧客の注文受付
- 顧客からの仕様書を基に、注文内容を把握。
- 製造指図書の発行
- 注文内容を記載した製造指図書を発行。
- 原価計算表の作成
- 製造指図書ごとに原価計算表を作成。
- 製品の製造
- 製造指図書を基に製品の製造を開始。
- 原価の集計
- 各製造指図書に対して、材料費、労務費、経費を集計。
- 原価計算表に記録。
- 製品ごとの原価算出
- 原価計算表に集計された原価が、各製品の原価となる。
4. 個別原価計算のメリット
- 精度の高い原価把握: 製品ごとの詳細な原価計算が可能。
- 採算性の分析: 各注文の利益率やコスト効率を明確に把握。
- 顧客対応の柔軟性: 多様な仕様や条件に応じた生産が可能。
5. 注意点
- 運用の煩雑さ: 製品ごとに詳細な記録が必要で、管理負担が増加。
- コストの明確化: 材料費や労務費を正確に計上するための仕組みが必要。
個別原価計算の構成要素
個別原価計算では、以下の要素を基に原価を計算します。
1. 直接費
- 特定の製品や注文に直接結びつけられる費用。
- 直接材料費:製品の製造に直接使用される原材料。
- 直接労務費:製品の製造に従事する作業員の賃金。
2. 間接費
- 複数の製品や注文に共通して発生する費用。
- 製造間接費:工場の電気代、設備の減価償却費など。
- 配賦基準(作業時間、機械稼働時間など)を基に特定の製品や注文に割り当てます。
個別原価計算の流れ
- 注文ごとの識別番号の付与
- 各注文やプロジェクトに固有の識別番号を割り当てます。
- 原価データの収集
- 材料費、労務費、間接費を注文ごとに記録します。
- 原価の分類
- 直接費を直接追跡し、間接費を適切な基準で配賦します。
- 製品別原価の集計
- すべてのコスト要素を合計して、製品または注文の総原価を計算します。
- 利益の計算
- 売上高と総原価を比較して、収益性を評価します。
計算例
例:受注製品Aの個別原価計算
- 直接材料費:100,000円
- 直接労務費:50,000円
- 製造間接費:総額300,000円(配賦基準:作業時間)
- 作業時間:
- 製品A:10時間
- 製品B:20時間(全体:30時間)
ステップ1:製造間接費の配賦率を計算
製造間接費配賦率 = 製造間接費総額 ÷ 全体作業時間 = 300,000 ÷ 30 = 10,000
ステップ2:製品Aに配賦される間接費を計算
製品Aの間接費 = 作業時間(製品A) × 配賦率 = 10 × 10,000 = 100,000円
ステップ3:製品Aの総原価を計算
総原価(製品A) = 直接材料費 + 直接労務費 + 間接費 = 100,000 + 50,000 + 100,000 = 250,000円
個別原価計算のメリット
収益性の明確化
各製品やプロジェクトごとの利益を正確に把握できる。
価格設定の根拠提供
正確な原価を基に、適切な価格設定が可能。
原価管理の効率化
どのプロセスでコストが発生しているかを詳細に分析可能。
無駄の発見
注文ごとのコストを分析することで、効率化の余地を特定。
個別原価計算のデメリット
- 手間がかかる
- 各製品や注文ごとにデータを収集し、計算するため、労力が必要。
- 間接費配賦の精度
- 間接費の配賦基準が適切でないと、原価計算の精度が低下。
- 複雑性
- 多品種少量生産や複数の注文がある場合、管理が煩雑になる。
- 適用範囲の限定
- 大量生産には不向きで、特定の業種や生産形態に限定される。
個別原価計算の適用例
1. 受注生産
- 顧客ごとに仕様が異なる製品(例:オーダーメイド家具、特注機械)。
2. 建設業
- 工事ごとのコストを計算し、プロジェクト単位で利益を評価。
3. システム開発業
- 各プロジェクトごとの開発コストを正確に把握。
4. サービス業
- コンサルティング業務やプロジェクト単位での費用計算。
まとめ
個別原価計算は、多品種少量生産や受注生産の企業で特に重要な原価計算手法です。製品やプロジェクトごとの詳細な原価を把握することで、収益性の向上や価格戦略の策定、原価管理の効率化が可能となります。
個別原価計算は、受注生産形態に特化した原価計算方法であり、製造指図書と原価計算表を活用して、各製品の原価を正確に算出します。これにより、製品ごとのコスト管理や利益分析が可能となります。
ただし、データ収集や間接費配賦の精度向上に注意し、適切な管理手法を導入することが成功の鍵です。個別原価計算を活用して、より効率的なコスト管理と収益性向上を目指しましょう!
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