L興業のN社長は、まだ五十歳にも満たない若い経営者だが、その業績は他の追随を許さないほど安定しており、しかも堅実だ。その理由の一つは、主要な取引先が異業種の6社に分散されている点にある。特定の業界や一社の取引先に過度に依存せず、多様な顧客基盤を築いていることが、同社の強みとなっている。
経営基盤を支える努力と戦略
この安定した経営構造は、偶然に生まれたものではない。N社長の徹底した努力の賜物だ。彼は、どのような会合であれ、出席する正当な理由がある場合は必ず顔を出す。そして、その場で最低一人、新たな人脈を築くことを自らに課し、それを忠実に実行している。
このようにして集められた名刺の数は、なんと一万枚にものぼる。この数字は、単なる数の多さを超えた、N社長の活動量と努力の象徴だ。その一枚一枚には、築かれた信頼の絆が込められている。
さらに驚くべきは、N社長がその一万枚の名刺の相手全員に、暑中見舞いや年賀状を欠かさず送り続けているということだ。このような継続的なコミュニケーションは、名刺交換で終わらず、長期的な信頼関係を育むための重要な要素となっている。
名刺のネットワークがもたらす危機の突破力
N社長はこれまで何度も経営の危機に直面したが、そのたびに名刺のリストを見直し、適切な人物に相談を持ちかけた。そして、そうした相手がいつも救いの手を差し伸べてくれたという。名刺交換を通じて築かれたネットワークが、N社長の経営を支える生命線となっているのだ。
彼は営業部員に対しても、この名刺の重要性を説く。「僕がこれまでに出会った人は一万人、その中で得意先になったのは六社だ。営業というのはそういうものなんだ」と。この言葉には、営業の現実を冷静に見つめ、数多くの挑戦の中から結果を掴むという考えが込められている。
「宝物」としての名刺
私がN社長と名刺交換をした際、彼はこう言った。「おかげ様でまた私の宝が一枚増えました」と。その言葉は単なる礼儀を超え、感謝とユーモア、そして人との繋がりを大切にする彼の哲学を象徴していた。
社長の外部活動が企業を変える
企業の成果は、外部との関係性によって大きく左右される。私が訪れる企業の多くでは、主要な得意先の多くが社長自身の活動によって築かれている。外部から成果をもたらす最大の要因は、結局のところ社長自身なのだ。
社内に閉じこもりがちな「穴熊型」の社長では、業績向上は難しい。そんな社長に私はいつも外に出ることを強く勧める。驚くべきことに、そのアドバイスに従った社長たちは、短期間で大きな成果を持ち帰ることが多い。そのたびに、外部活動の重要性を再認識し、まるで新たな発見をしたような感覚を覚える。
名刺一枚に込められた未来への投資
N社長が一万枚の名刺を通じて築き上げたネットワークは、単なる営業活動の枠を超えている。それは、彼自身の努力、継続的なコミュニケーション、そして人を大切にする姿勢によって成り立っている。
一万枚の名刺は、数字以上の意味を持つ。それは、N社長が未来への可能性を信じ、日々の行動を積み重ねることで得た「信頼」の証なのだ。そして、それがL興業の安定した経営を支える最大の柱となっている。
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