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カウンセラー常務の功罪:システムが逆効果を生むとき

B社の社長にとって、社員たちの勤労意欲の低さと社内に蔓延する不平不満は最大の悩みだった。特に、些細な個人的な問題や自己中心的な要求が、次々と社長の元に持ち込まれる状況は、経営において深刻な障害となっていた。

「一倉さん、他の会社でもこんなくだらない相談が社長のところに持ち込まれるものですか?」と社長が私に尋ねてきたとき、私は即座に「ありませんね」と答えた。
その場で、私は問題の核心を指摘した。「原因は人事担当の常務にあります」と。そして、この状況を打破するには、常務の勇退と社員との接触を完全に断つべきだと提案した。


問題の背景:良かれと思った行動が招く逆効果

この常務は、人格者であり、人間関係の改善に熱心に取り組む推進論者だった。社員の相談に耳を傾け、カウンセラーとして真摯に対応し、問題の解決に全力を尽くす姿勢を貫いていた。社員からの信頼も厚く、一見すると理想的な管理職に見える。

しかし、その行動が結果として社内の不平不満を助長し、勤労意欲を低下させる原因となっていた。常務が「どんな不満でも相談に来てほしい」と社員に呼びかけ、実際に解決に向けて努力する姿勢を見せるほど、社員たちは自らの不満を我慢しなくなった。そして、次々と些細な問題を常務に持ち込むようになり、その要求が次第にエスカレートしていった。


社内システムの歪み

常務が全ての相談に対応するには限界があり、結果的に対応が遅れたり、後回しにされたりするケースも出てきた。その結果、対応に不満を持つ社員たちが社長に直接訴え出る事態が発生。こうして、本来であれば問題にすらならない些細な事柄が社内全体の不満の種となり、社長の時間を奪い、会社の経営を妨げる大きな要因となっていた。

さらに、常務の「温情的」な対応は、不正行為や職務怠慢にも及んでいた。不正を働いた社員が厳しい処分を受けることなく、ただ部署を移動させるだけで済まされることも少なくなかった。この対応が、社内の規律を緩ませる結果を招き、組織全体の士気をさらに低下させる要因となっていた。


人事の混乱と経営への影響

人事異動の際も、常務の関与が問題を悪化させていた。異動対象者や関連部門の不満が発生すると、常務はその声を受け入れ、社長に対して異動の保留を申し出ることが常態化していた。特に、「異動するくらいなら辞める」といった社員からの脅しに対して、常務はすぐに譲歩しようとする傾向があった。このため、人事決定が予定通り進まず、組織の流動性や効率性が著しく低下していた。


解決策:システムをリセットする

このような状況を打破するには、常務の人事担当としての役割を終了させ、社員との直接的な接触を断つしかないと私は提言した。社員の不平不満をすべて吸い上げて解決しようとする仕組みそのものが問題を助長しており、これ以上の運用は経営にとって有害でしかなかった。


本当の改善とは

人事問題において重要なのは、全ての不満を解決することではなく、適切な判断基準を設け、社員自身が自律的に問題解決に向き合う文化を育むことだ。社員が全ての不満を上司に持ち込むのではなく、組織の中で解決策を見出し、会社全体の目標達成に貢献する意識を持たせる必要がある。

常務がいくら善意を持って行動していたとしても、彼のカウンセリングシステムが社内の問題解決力を低下させ、逆に問題を拡大してしまった。この教訓は、善意だけでは組織の問題を解決できないことを示している。

社員の声に耳を傾ける仕組みは必要だが、それは会社全体を前進させるためのものであるべきだ。そのバランスを欠いた仕組みは、会社を停滞させる要因となる。最終的に重要なのは、経営者が冷静に状況を見極め、必要な変革を行う勇気を持つことだろう。

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