F社の事例を通して、組織の本質について考えてみたい。F社では以前、コンサルタント団体に依頼して組織調査を行い、半年間にわたる詳細な調査と検討の末、新たな組織体制を導入した。しかし、その成果は期待したものには程遠く、わずか数か月で再び組織変更を迫られる事態に陥った。
従来の組織論の限界
この失敗の背景には、従来の「職能主義」に基づいた組織設計の問題がある。職能主義では、業務を職能や技能ごとに分類し、同種の仕事を一つの部門にまとめることが基本とされてきた。この手法自体に問題があるだけでなく、運用段階でさらに矛盾が生じる。
たとえば、単純に「ソロバンを使う業務は経理」「計算尺を使う業務は技術」といった分類を行うような発想では、経営の視点が完全に欠落している。これを「用具主義」と呼ぶならば、企業の本質である目標達成には何の役にも立たないだろう。
組織は目標達成の手段である
組織とは、企業の目標を達成するための手段である。したがって、組織の設計は目標を起点として考えなければならない。この基本原則を無視すれば、どれだけ精緻な分析や調査を行ったとしても、結果はF社のような失敗に終わる。
具体例として、S工業のケースを挙げよう。この企業は、自動車メーカーの専属下請けとして事業を展開していたが、値下げ要求と賃金上昇が重なり、赤字寸前の状況に追い込まれていた。専属状態から脱却する必要性を痛感していた社長に対し、私は、まず数字を通じて課題を明確にするよう提案した。
役員会で3年後の業績予測を具体的に書き出した結果、予想を超える赤字が明らかになった。これを基に、必要な利益を確保するために新たな収益源を生み出す方法を徹底的に議論し、その実現に向けた具体的な計画を立てた。
目標が組織を変える
議論の中で明確になった目標は、従来の組織体制では実現不可能であることを浮き彫りにした。新たな営業活動を展開し、新規受注に対応するための体制が不可欠であることは明白だった。結果として、従来の組織を大胆に見直し、新しい組織図が作られた。
新しい組織は、営業活動に重点を置くだけでなく、新規受注品の生産体制まで考慮されていた。生産部門から課長を配置転換して新規事業の責任者とし、さらに工場内に待機用スペースを確保するなど、目標達成に向けた具体的な準備が進められた。
柔軟な組織づくりへの転換
このような成功例は、従来の「分掌主義」に基づく組織運営がもはや限界を迎えていることを示している。分掌主義では、固定的な業務分担によって一部の部門が過剰に忙しくなる一方で、他の部門は手の空いた状態が続くといった非効率が生じやすい。この結果、間接部門が不必要に肥大化し、企業全体のコストが増大する。
これに対する解決策として注目されるのが「プロジェクト主義」である。プロジェクト主義では、固定された組織体制を廃止し、その時々の目標や課題に応じて柔軟にチームを編成する。これにより、少人数でありながら高い機動力と柔軟性を発揮することが可能になる。
プロジェクト主義の効果
プロジェクト主義の利点は、効率性の向上だけでなく、社員個々の能力開発にも寄与する点にある。多様な業務に取り組む機会が増えることで、社員のスキルの幅が広がり、企業全体の競争力が向上する。また、変化の激しい経営環境においても迅速に対応できる体制を築くことができる。
目標指向の組織設計を実現するために
企業は変化の中で生き残るために、従来の固定観念にとらわれることなく、目標指向の組織設計を実現する必要がある。そのためには、次のようなポイントが重要だ。
- 目標の明確化
組織の設計は、企業の目標を起点として考える。 - 柔軟な組織構造
固定的な組織から脱却し、プロジェクト単位でチームを編成する。 - 社員の能力開発
プロジェクト型の業務を通じて、社員のスキルを高める。 - 適切なリソース配分
必要な部門に人員や資源を優先的に割り当てる。
企業運営の中心には、目標達成がある。そのためには、時代の要請に応じて組織を変革する覚悟が求められる。目標に基づいた組織こそが、企業の競争力を最大限に引き出す鍵となるだろう。
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