S工業は約500名の従業員を抱える中堅企業です。ある日、調査のために訪問した際、社長室で目を引いたのは、机の中央に積み上げられた約20センチの高さの書類の山でした。それは日報で、22冊もありました。
日報の現状
この大量の日報を社長が毎日目を通すわけもなく、実際にそんな時間はありません。社長によると、「売上日報だけを見ている」とのことでした。それは正しい判断です。S工業では標準品を継続的に生産しており、価格や材料費、外注工賃などの要素は固定されているため、売上動向を把握することが経営判断の中心になるからです。
しかし、それ以外の21種類の日報がまったく活用されていない現実を見過ごすのは問題です。これらの報告書は無駄でしかなく、作成にかかる時間や労力を浪費しています。
無駄な書類の放置
この非効率に対して、私は「無駄な報告書を廃止すべきだ」と提案しました。しかし、社長の反応は、「せっかく一生懸命作っているし、何か他の役に立つかもしれないから」というものでした。人情味ある答えではありますが、経営者としての冷静な判断が求められる場面です。
効率的な情報管理の重要性
私の知人に、中堅企業で素晴らしい業績を上げている専務がいます。彼は必要な情報があるときだけ部下に指示を出し、それ以外の資料作成を一切許しませんでした。もし、部下が「それならもう作ってあります」と答えると、「作れとも言わない資料をなぜ作る? 部署が暇なら減員だ」と容赦なく対応していました。このような効率を追求する姿勢は、無駄を排除するための模範例と言えます。
資料作成の原則
資料は、明確な目的と上司の指示があった場合のみ作成されるべきです。それ以外の資料は無駄です。必要な原始記録が適切に整備されていれば、必要な時に必要な資料を迅速に作成することができます。目的が曖昧な資料に時間を割くのは非効率的であり、経営資源の浪費です。
経営者の責任
日報の山は、企業文化としての非効率を象徴しています。経営者は、このような非効率を放置せず、目的のない作業を徹底的に見直し、リソースを最適化する責任があります。無駄な報告書に労力を費やすのではなく、経営の本質に集中するべきです。
最小限の情報で最大の判断を
経営に必要な情報は膨大ではなく、精選された最小限のデータです。その核心を押さえ、迅速かつ正確な判断を下すことで、組織全体の効率と業績を向上させることが可能です。日報の山は、無駄を省き、経営資源を再配置するきっかけとなるべきです。
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