ある中堅企業の新設工場を訪れた際、興味深いエピソードがありました。その企業は業績が芳しくなく、実質的には赤字状態でした。営業利益が赤字で、土地売却益によってかろうじて利益を確保している状況です。工場見学を終えた後、社員食堂で昼食をいただいた際、その施設について詳細を伺う機会がありました。
食堂の過剰投資
新設工場では、分散していた複数の工場を統合することで、ムダを削減する計画が進められていました。しかし、敷地の半分は将来的に活用される予定で、現在は使われていません。そして、この工場の社員食堂について、興味深い話を聞きました。
将来的に工場の人員が約2倍に増えることを見越して、食堂はその人員を一度に収容できる規模で設計されていました。確かに、一見すると理にかなった計画に思えます。しかし、現在の人員では、食堂の半分以上が遊休施設となり、多額の維持費や固定資産税が発生しています。さらに、この余剰施設に固定される資金には利息がかかるため、企業の財務を圧迫していました。
食堂の設計に見る問題点
この計画は「全員が一斉に食事を取れるように」という前提に基づいています。しかし、食堂の運営には必ずしも全員を一度に収容する必要はありません。利用者を複数のグループに分け、時間をずらして利用する方法を取り入れれば、施設の規模を半分以下に抑えることが可能です。
私が知るいくつかの企業では、すでに時差利用を導入し、効率的に運用しています。こうした方法を採用することで、食堂にかかる過剰な資金を抑え、その分を新製品開発や販売促進といった、直接的に利益を生む分野に投資できるのです。
本来の資金活用の在り方
この企業は自社製品を持ちながら、研究開発費はごくわずかしか割かれていません。また、技術重視・営業軽視という伝統的な悪弊が根強く、人手不足の時代にもかかわらず、操業度は80%を下回っています。この状況は、「経済的成果を上げる」という企業の本来の使命が軽視され、「厚生施設の充実」といった労務管理に過剰にこだわっている証拠です。
従業員の納得を得るために
従業員にとって重要なのは、全員が一斉に食事を取れる環境ではありません。むしろ、賃金が高いことや企業の業績が安定していることの方が圧倒的に魅力的です。経営者が食堂の時差利用を方針として明確にし、その節約された資金を収益を生む活動に積極的に投資する姿勢を示せば、従業員も納得するでしょう。
労務管理で最も重要なのは、会社の方針を従業員に積極的に伝え、理解を得ることです。物的な手段だけで従業員を納得させようとするのは浅はかで、本質を見誤っていると言わざるを得ません。
経営者への提言
経営者は労務管理の枝葉末節に気を取られるのではなく、企業の利益を生む本来の使命に焦点を当てるべきです。余剰な資金を効率的に活用し、持続可能な成長を目指すことが、企業の成功につながります。
このような姿勢を徹底させることで、企業全体の意識が変わり、経営の効率化と利益の最大化が実現します。高収益を上げている企業は、例外なくこのような態度を貫いており、業績不振の企業との決定的な違いはここにあります。
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