「うちには自社製品がないから占有率なんて気にする必要はない」と悠長に構えている場合ではありません。部品加工を担う立場であっても、その部品を使って製品を組み立てている親会社の占有率が重要な意味を持ちます。親会社が傾けば、下請けもその影響を免れることはできないのです。
リスクの高い取引基盤
数年前、R化学を訪問した際、自動車用ゴム部品を製造している同社の主要取引先がプリンス自動車、富士重工業(現・SUBARU)、ダイハツ工業の3社であることがわかりました。この取引構造は極めてリスクが高いものでした。なぜなら、これらの取引先はいずれも限界生産者であり、経営環境の変動に非常に弱い立場だったからです。
私は社長に対し、大至急で日産かトヨタとの取引基盤を築くか、他業界向けの製品に事業を広げるべきだと強く説きました。しかし、社長の関心は生産設備の合理化に向けられており、顧客基盤の拡大にはほとんど注意を払っていませんでした。その結果、私の提案にも真剣に耳を傾ける様子はありませんでした。
その後、日産がプリンスを吸収合併するという発表がなされ、R化学は吸収合併された側の協力工場という不利な立場に追い込まれることになりました。このような状況では、経営基盤の弱さが顕在化するのは時間の問題です。
大手から限界生産者への乗り換え
B製作所の事例は、さらに深刻な教訓を示しています。もともと自動車部品メーカーだった同社は、自動車業界の斜陽化を受けてオートバイ業界へ転換し、ヤマハ発動機の下請けを開始しました。しかし、工賃が割に合わないとの判断から、宮田自転車(後の宮田工業)のオートバイ部門へと取引先を変更しました。
この選択は、大手メーカーから限界生産者へと乗り換えるという致命的な誤りでした。その後、宮田工業がオートバイの生産を中止した結果、B製作所の専用設備は無用の長物と化し、大幅な赤字を計上しました。このような状況を招いた原因は、経営者が他業界への可能性を検討せず、狭い視野で同じ業界内での選択を続けたことにあります。
成長企業の冷徹な判断
この事例から得られるもう一つの教訓は、高収益を維持する企業の特徴にあります。松下電器(現・パナソニック)は赤字続きだった宮田工業を黒字転換させました。その成功の鍵は、採算割れのオートバイ事業を冷徹に切り捨てた点にあります。
収益性の低い製品や事業を見極め、ドライに整理していくことは、企業が持続可能な成長を遂げるために欠かせない経営判断です。このような判断ができるかどうかが、限界生産者に依存するリスクを軽減し、健全な経営を実現するための鍵となります。
持続可能な経営への道筋
企業が持続可能な成長を実現するためには、次のような視点が必要です:
- 顧客基盤の多様化:一つの業界や得意先に依存せず、リスクを分散させる。
- 収益性の評価:採算性の低い事業を見極め、必要ならば整理する。
- 視野の拡大:自分の業界以外の可能性を積極的に探る。
限界生産者への依存は、爆薬の上でバランスを取るような危険な状態です。経営者には、このリスクを認識し、未来志向の戦略を描く能力が求められます。
コメント