企業の中で部門ごとの独立性を確保し、相互牽制を機能させる「三権分立」の仕組みは、組織運営の基盤を支える重要な原則です。これは単なる理論ではなく、現実に直面する問題を解決し、秩序を保つための実践的な仕組みでもあります。
悲劇を招く「分業なき検査体制」
かつてS社では、検査課が製造部に所属していたことで、組織の分業が崩壊していました。検査課がどれほど真剣に不良品を排除しようとしても、製造部長が現場を訪れ、「この程度なら問題ない」と不合格品を合格扱いにすることが常態化していたのです。それだけではありません。不良品を検査課に回し、「手直しして出荷するように」と指示することすらありました。その結果、検査課長は、「ここは検査課ではなく、手直し課だ」と嘆くようになっていました。
この状況がもたらした影響は、単に検査課の士気を低下させるだけにとどまりませんでした。顧客からは「品質が悪い」「加工が雑だ」といったクレームが相次ぎ、S社の商品は他社よりも低価格でなければ売れないという深刻な事態に陥りました。結果として、企業全体の信用が失われ、収益も圧迫されることとなったのです。
三権分立による組織の健全化
この問題を根本的に解決するには、製造、検査、管理のそれぞれを独立させ、相互に監視し合える「三権分立」の仕組みを導入する必要があります。たとえば、検査部門は製造部門から完全に独立し、製品を一定の基準に基づいて厳正に検査します。そして、不合格となった製品に対して、製造部が異議を唱えることは一切許されない仕組みを確立しなければなりません。
また、この原則は他の部門にも適用されます。購買部門は、購買命令や依頼書がない限り注文を発行できず、受け入れ部門は注文書がない物品を受け付けてはなりません。さらに、検査部門の承認がなければ経理部門は支払いを行わず、倉庫は出庫指図書がなければ物品を出庫することができない。このように、部門ごとの役割を明確にし、相互の独立性を保つことで、全体の秩序と品質を維持することが可能になります。
三権分立を阻む「運用上の誤り」
この仕組みが効果を発揮しない場合、その原因は三権分立という原則そのものではなく、その運用方法に問題があります。たとえば、以下のような運用上の問題が障害となることがあります。
- 煩雑すぎる手続き
必要以上に複雑な手続きが現場の負担となり、効率が低下する。 - 誤った責任と権限の分配
部門間での役割分担が不明確で、責任の所在が曖昧になる。 - 顧客視点の欠如
規定や形式を優先し、顧客サービスの質が軽視される。 - 形式主義の予算管理
実際のニーズよりも形式的な予算主義が優先され、柔軟な対応が阻害される。
これらの要素が引き起こす混乱は、三権分立という原則が悪いのではなく、その運用や考え方に問題があるといえます。
組織秩序を守るための決意
「仕事を円滑に進めるため」という理由で、この三権分立の原則を軽視することは決して許されません。この原則を崩せば、短期的には一部の業務が効率化されるように見えるかもしれませんが、最終的には組織全体の秩序を損ない、深刻な問題を引き起こす原因となります。
三権分立は、単なる形式的な仕組みではありません。それは、組織の秩序を保ち、品質を確保し、不正を防止するための根幹となるルールです。このルールを堅持し、慎重に運用することで、組織は初めて健全に機能し続けることができるのです。
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