新商品開発の停滞に悩む社長たちが、よく言い訳にするのが「技術者ではないからわからない」「開発は現場の専門家に任せている」という主張だ。しかし、開発方針の決定は、技術の問題ではなく経営の問題であり、社長自身が担うべき最重要の役割である。以下にその理由と、正しい経営者の姿勢について解説する。
1. 社長が開発方針を示すべき理由
(1) 新商品は会社の未来を担う柱
- 新商品開発は、未来の収益基盤を構築するための極めて重要な取り組みである。
- 現在の利益を支える事業がいつか陳腐化することを見据え、新たな事業を育てる必要がある。
(2) 開発方針は経営の根幹に関わる
- 開発する製品がどの市場を狙い、どの顧客層に向けられるかは、経営全体の方向性を決めるものだ。
- これは技術者の専門領域ではなく、会社の長期的なビジョンを持つ経営者だけが判断できる領域である。
(3) 開発部門は指針なしでは動けない
- 明確な方針がないと、開発部門は何を優先すべきかわからず、迷走する。
- 現場は多くの課題やリクエストに翻弄され、結果として収拾がつかなくなる。
2. 開発方針を示さない場合の弊害
(1) 現場が混乱する
- 営業部門からの顧客要望やクレームに振り回され、開発部門が無計画な対応に追われる。
- 要望が顧客全体のニーズなのか、個別の技術者の好みに過ぎないのかも判断できない。
(2) リソースの浪費
- 開発部門が優先順位も方向性もないまま手当たり次第に取り組むと、無駄なテーマが増加し、人的・資金的リソースが浪費される。
- 例えば、ある企業では開発テーマが100以上も存在し、手詰まりに陥るケースが発生している。
(3) 社員の士気低下
- 方針が示されない中で努力を重ねても、成果が評価されず、士気が低下する。
- 現場に任せきりの経営者に対する不信感が高まる。
3. 社長が取るべき具体的な行動
(1) 明確な方針の提示
- 「どの市場を狙うのか」「どのような顧客ニーズに応えるのか」を明確に定め、開発部門に伝える。
- 方針はシンプルであるほど現場が理解しやすく、一貫した取り組みが可能になる。
(2) 顧客ニーズの把握
- 社長自ら顧客や市場に足を運び、真のニーズを見つけ出す。
- 営業部門や現場の声をそのまま受け入れるのではなく、経営者としての視点で優先順位を判断する。
(3) 定期的な進捗確認
- 開発部門の活動状況を定期的にチェックし、必要に応じて方向修正を行う。
- チェックは「管理」ではなく「支援」の姿勢で行い、現場が抱える課題に寄り添う。
4. 成功する開発組織の条件
(1) 開発部門の独立性
- 現事業と未来事業を明確に分離し、未来事業専任の体制を整える。
- 開発部門は現場の短期的な利益目標に引きずられることなく、中長期的な視点で活動できるようにする。
(2) 社長直轄の体制
- 開発部門は社長の直接管理下に置き、指揮系統を明確化する。
- 現事業の部門長の管理下に置くと、短期利益優先の圧力がかかり、未来事業が停滞する。
(3) 適切な人材配置
- 開発部門には適切なリーダーを配置し、方針に基づいて自由に動ける環境を提供する。
- 同時に、社長が直接指導することで、組織全体の方向性を一貫させる。
5. 方針提示を怠る社長の誤解と解消策
誤解
- 「技術的な内容はわからないから任せるべきだ」
- 技術は開発部門が担うものであり、経営者は市場や顧客ニーズを基に方向性を決める役割がある。
- 「開発部門の自主性に任せたほうがいい」
- 自主性を発揮させるためにも、まずは明確な目標や方針が必要である。
解消策
- 「新商品開発の最終責任は自分にある」という意識を持つ。
- 必要であれば専門家や顧問を活用し、経営者としての視点を磨く。
6. 事例: 成功した開発方針の提示例
(1) A社の家電製品開発
- 社長が「高齢者向けの使いやすさを最優先した商品」を方針として掲げた。
- 開発部門はその方針に基づいて、シンプルで直感的に操作できる家電製品を開発。
- 結果、シニア市場で大ヒット商品となり、企業の収益を大きく押し上げた。
(2) B社の食品事業
- 社長が「健康志向の新商品で新市場を開拓する」という明確な方針を打ち出した。
- 開発部門がその方針を基に商品開発を進め、ターゲット市場のニーズに応える製品を次々と投入。
- 売上の20%以上を新商品が占めるまでに成長。
7. 結論: 社長の役割は「舵取り」
開発方針の提示は、単なる業務の一環ではなく、会社の未来を切り開くための経営者の最重要責任である。技術の詳細を理解する必要はないが、市場のニーズを見極め、それに応えるための方向性を示すことは、社長以外にできない仕事だ。
「任せる」と「放任」は全く異なる。社員が力を発揮できる環境を整え、全員が同じ方向を向いて進めるよう導く。それが、経営者としての真の役割であり、会社を成長させるための基本的な姿勢である。
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