A社の社長から、新商品のクロレラをどのように販売すれば成功するのか、という相談を受けた。同社はこれまで新商品を試みたものの、成功例が少なかった。その理由を探るため、これまでの販売手法を詳しく尋ねたところ、各営業所に新商品の販売を任せるという方法が採られていた。これは一見合理的に見えるが、新商品の性質と販売現場の実情を考えれば、失敗するのは避けられない方法だった。
なぜ新商品は売られないのか?
各営業所には既に売上目標が課されており、その目標を達成するためには、効率的に売れる従来の商品を優先するのが自然な流れだ。新商品は実績がないため、初期段階では売上が少なく、時間を費やしても成果が出にくい。このため、セールスマンは新商品を後回しにし、既存の商品を売る方がノルマ達成に有利だと考える。
さらに、新商品の販売に力を注いだ結果、目標が達成できなかった場合、評価が下がるリスクを負うことになる。こうした現場の現実を踏まえると、一般的な営業体制の中で新商品を成功させるのは極めて難しい。
新商品販売の専用プロジェクトチームを編成
新商品の販売を成功させるためには、既存の営業体制から切り離し、専用のプロジェクトチームを編成する必要がある。このチームは新商品に特化し、クロレラ以外の商品は一切扱わないようにする。以下は、成功に向けた具体的なステップだ。
1. プロジェクトチームを社長直轄とする
プロジェクトチームは社長直轄とし、組織全体の優先事項として扱う。この体制により、現場からの協力を得やすくなり、リソースの集中が可能となる。
2. 特定の営業所を対象に選定
まずは一つの営業所を選び、その担当地域内で集中的に活動する。営業所長と綿密に打ち合わせを行い、訪問計画を共有する。この段階で、営業所に一切の負担をかけない方針を明確に伝える。
3. 経費と人件費は本社負担
プロジェクトチームの経費や人件費はすべて本社が負担する。営業所に余計な負担をかけず、売上は営業所の成績として計上することで、営業所長も安心して協力できる環境を整える。
4. 地域内を一軒残らず訪問
選定した営業所の担当地域内で、プロジェクトチームが一軒残らず訪問する。訪問活動は、商品説明やサンプル配布、試用提案を徹底し、地道に顧客との接点を増やすことを目標とする。
5. 軌道に乗ったら営業所に引き継ぎ
プロジェクトチームの活動が成果を上げ、売上が安定してきた段階で、その地域の販売業務を営業所に移管する。チームは次の営業所で同様の活動を繰り返し、徐々に販売網を拡大していく。
成果と教訓
この戦略を実行した結果、クロレラの販売は見事に成功し、最終的にはA社の主要商品の一つに成長した。この成功は、未来事業(新商品)を現事業(既存商品)から切り離して運営したことに大きく依存している。現行の営業体制に新商品を押し込むのではなく、専用のプロジェクトチームを編成することで、専念と集中が可能になり、効率的に成果を上げることができた。
新商品販売を成功させる考え方
1. 未来事業は現事業と分離せよ
新商品の販売は、軌道に乗るまで収益が少ない時期が続く。このため、短期的な目標に縛られた現事業から切り離し、独立したプロジェクトとして進めるべきである。
2. 初期投資を惜しまない
新商品の販売には、試行錯誤とリソースの投入が欠かせない。初期段階の赤字を許容し、将来的な成長の基盤を作るという長期的な視点が必要だ。
3. 本社の強力な支援体制
営業所に負担をかけず、本社が全責任を負うことで、現場の協力を得やすくなる。また、社長直轄とすることで、組織全体の優先事項として注目を集める。
4. 段階的な展開
一度に全国展開を目指すのではなく、地域を限定し、成功モデルを構築してから次の地域へ拡大していく。これにより、リソースの効率的な配分が可能になる。
結論
新商品を市場に定着させるためには、既存の営業体制とは異なるアプローチが求められる。プロジェクトチームを編成し、専用体制で推進することで、新商品の特性に応じた効果的な販売活動が可能となる。
未来事業を現事業と分離し、長期的な視点で育成する。この基本原則を理解し、実行することで、新商品の成功は現実のものとなる。A社の事例は、その成功を裏付ける一例と言えるだろう。
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