新製品の開発には多くの労力とコストがかかるが、それを市場に受け入れてもらうのは容易なことではない。J社が独自開発した温水器、K社が提案した画期的な水道管用接手、T社のパワー・ユニット——いずれも性能や品質には自信を持つ製品だが、実績がないという一点が壁となり、販売が進まない。
実績の欠如がもたらす不信感
顧客が「実績の有無」を問うのは、新製品に対する不確実性への不安が背景にある。優れた性能や革新的な仕組みを持つ製品であっても、実際に使用した経験がない場合、購入者は「どのような問題が起きるかわからない」というリスクを想定する。このリスクは、特に以下のような要素で強まる。
- 信頼性への不安
新製品が耐久性や安全性の点で想定通りに動作する保証がないため、導入後のトラブルが懸念される。 - 責任問題への配慮
特に法人や公共機関では、万一トラブルが発生した場合に「なぜ実績のない製品を採用したのか」と責任を問われる可能性がある。 - 事故リスクへの警戒
機械の不具合が直接事故につながる可能性がある場合、導入に対する慎重さは極端に高まる。
このような状況下で、顧客の心を動かし、実績のない製品を採用してもらうには特別な工夫が求められる。
実績ゼロの製品をどう売るか
1. 試用期間を設ける
リスクが比較的低い製品であれば、「代金不要で試してほしい」と現物を提供し、実際の使用体験を通じて製品の良さを理解してもらう。試用が成功すれば、その顧客のフィードバックを他の顧客への提案材料として活用できる。
- 実例: 温水器のような製品であれば、小規模な顧客を対象に試用機を提供し、使い勝手や性能に納得してもらうことで信頼を築く。
2. 初期導入のリスクを肩代わりする
導入時のリスクを企業側が負担する契約を提示する。たとえば、問題が発生した場合の全額返金保証や無償修理の提供などが考えられる。これにより、顧客は心理的なハードルを下げられる。
- 実例: 水道管用接手のような製品では、トラブル時の対応体制を強調し、「すべてのリスクを弊社が負担します」と保証を付ける。
3. 信頼できる第三者の証明を得る
公的認定や業界の第三者機関によるテスト結果を取得し、その信頼性を訴求する。これにより、顧客は「実績がなくても信頼できる」と認識しやすくなる。
- 実例: パワー・ユニットのような製品では、第三者機関による性能試験を受け、「公的に信頼が証明されている」という形で信頼を獲得する。
4. 限定的な導入実績を作る
既存の顧客や協力的な顧客にお願いし、小規模でも導入実績を作る。これを活用して他の顧客に対して「既に使用されている」とアピールする。
- 実例: K社の特殊接手であれば、協力的な水道局にモニターとして採用を依頼し、その結果を実績として他の水道局に提案する。
5. 顧客の不安を丁寧に解消する
導入後の具体的なサポート体制を提示し、不安を取り除く。顧客が「問題が発生しても対処してもらえる」と安心できれば、導入への意欲が高まる。
- 実例: パワー・ユニットのユーザーに対し、24時間体制のサポートや定期点検サービスを提案する。
新製品販売の心得
販売実績のない製品を売るためには、顧客の不安を徹底的に理解し、それに応える具体策を提示する必要がある。製品が優れていることを訴えるだけでは不十分であり、顧客の立場に立ってリスクを軽減する工夫が求められる。
また、販売活動は短期的な結果を追求するだけでなく、長期的な信頼構築を視野に入れるべきだ。実績のない製品を受け入れてもらうための試用や限定導入といった手法は、当初はコストがかかるが、信頼を得ることで次の取引へとつながる可能性が広がる。
実績を作り、信頼を拡大する
一度でも実績を積めば、それを基に他の顧客へのアプローチが大きく変わる。「どこどこで使用されている」という事実は、新規顧客に対する最強の説得材料だ。実績のない状態からスタートするのはどの企業も同じだが、小さな一歩を積み重ねることで信頼の基盤を築くことができる。
新製品の市場投入は、決して簡単ではない。しかし、顧客の視点に立ち、不安を解消する努力を惜しまなければ、実績の壁を乗り越え、成功へとつなげる道が開ける。
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