N社は、大型機械を製造するメーカーで、一台数千万円から一億円以上する製品を扱っている。これほど高額な商品である以上、一つの新商品が市場で受け入れられるかどうかが業績に直結する。だが、石油不況の影響もあって売上が低迷し、社長は悩みを抱えていた。
私は社長に、「顧客の元へ行ったことはあるのか」と尋ねたところ、「ない」という答えが返ってきた。この回答に驚きつつも、「社内で悩んでいても答えは出ない。顧客こそが頭痛を治す良薬を持っている」と伝え、現場へ行くよう促した。社長が意を決して得意先を訪問すると、次々と予想外の事態に直面することになった。
現場で得た驚きの事実
まず、N社のセールスマンたちが顧客の元へ足を運んでいなかった実態に気づいた。さらに、顧客の要望や意見をほとんど把握していないことも判明。社長自身が訪問することで、得意先の重要人物と直接話す機会を得られ、事業計画や設備更新の予算といった、セールスマンでは得られない貴重な情報を手に入れることができた。
ある顧客を訪問した際、N社が数年前に投入した新製品に関する驚くべき話を耳にした。この機械は発売当初こそ売れたものの、初期故障が原因で市場の信頼を失い、販売が停止した製品だった。しかし、この顧客は「とても良い機械だ」と高く評価し、次の更新時にも購入を希望していた。この評価と他の顧客からの不評とのギャップはどこにあったのだろうか。
初期故障への対応が分けた明暗
その顧客の担当セールスマンは、初期故障が発生した際、技術部門と連携し、不具合を一つひとつ修正する努力を重ねた。その結果、顧客にとって信頼できる製品に生まれ変わり、高評価を得ることができた。一方で、他の担当セールスマンたちは、同様の初期故障に対して責任感のない対応をとり、結果的に顧客の信頼を失った。
大企業では、購入した製品の評価が工場間で共有される。初期故障への対応が不十分だったことにより、不評が社内外で広まり、この機械の販売は完全にストップしてしまったのだ。
初期故障への備えと社長の役割
機械製品における初期故障は避けられないものである。しかし、重要なのは、それにどう対応するかだ。誠実で迅速な対応ができれば、製品そのものの信頼性だけでなく、企業としての信用も大きく向上する。一方、対応を怠れば、製品への不信感が広がり、企業全体の評判を損なうことになる。
初期故障への対応の責任はセールスマンだけに押し付けられるべきではない。その背後には、社長をはじめとする経営陣の姿勢がある。得意先を訪問せず、顧客の声を直接聞かない社長の怠慢が、最終的にN社の販売不振を招いたと言っても過言ではない。
新商品を投入した際には、特に初期段階で社長自身が顧客の声を聞き、その評価を把握するべきだ。もしN社の社長がこうした行動を取っていたなら、この機械は市場で主力商品として定着していたかもしれない。
初期故障対応が生む長期的な信頼
新商品の成功は、製品の性能だけでなく、初期段階でのフォローアップにかかっている。顧客との信頼関係を築き、問題解決に取り組むことで、製品の欠点を改善し、さらには次の販売機会につなげることが可能となる。
N社が取り組むべきは、初期故障を前提にした体制の整備だ。
- 初期故障対応チームの設置
専属の技術者とセールス担当を組み合わせたチームを編成し、新商品の導入初期段階で発生するトラブルに迅速に対応する。 - 定期的な顧客訪問
特に新商品の導入時には、社長自ら顧客を訪問し、直接評価を確認する。これにより、次元の高い情報を収集し、製品改善や事業戦略に活かす。 - フィードバックの収集と改善
顧客の声をデータとして蓄積し、製品開発や品質管理に反映させる。この仕組みがあれば、同様の初期故障を次回以降の製品で防ぐことができる。
結論
N社の事例が示すのは、初期故障への対応が顧客満足度や信頼を大きく左右するという現実だ。高額な大型機械のような製品では、特に顧客との信頼関係が重要であり、その構築には誠実で迅速な対応が欠かせない。新商品の開発には多大な資源と時間が費やされる。これを無駄にしないためにも、初期故障対策には万全を期し、顧客の期待に応える姿勢が必要不可欠である。
社長自らが現場で顧客の声を聞き、対応を指揮することが、最終的には製品の成功と企業の成長につながる。初期故障は試練であると同時に、企業としての力量を示すチャンスでもある。その重要性を理解し、全力で取り組む姿勢こそが、未来の成功を確かなものにする。
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