大型案件のリスクと効率的な価格帯の選定
スプレードライヤー(噴霧乾燥機)を製造するA社は、社員数100名の中堅企業でした。ある日、A社長はこう語りました。「一倉さんのセミナーで、占有率が高いほど収益性が向上し、業績が安定すると伺いました。しかし、わが社の占有率は90%と圧倒的なのに、業績は安定せず、一向に改善しないのです」と。
実際にA社の売上データを確認すると、年間推移は大きく上下しており、極めて不安定な状態でした。さらに、物件価格の詳細を調べると、価格帯が2000万円から5億円と非常に幅広いことがわかりました。この価格のバラつきが、業績不安定の主な要因だったのです。
大型案件が抱えるリスク
問題の根本にあるのは、A社の規模に対して大型案件が過剰に大きすぎることでした。以下の点が、大型案件特有のリスクとして挙げられます。
- リソースの集中
大型案件は、製造や設計のリソースを過剰に占有します。そのため、他の案件を手がける余力が失われ、全体的な生産効率が低下します。 - 資金回転の悪化
大型案件は仕掛かり期間が長くなるため、資金の回転が悪化します。この結果、キャッシュフローの不安定さが業績全体を揺るがします。 - 低い粗利益率
大型案件は規模の割に粗利益率が低い場合が多く、収益性を圧迫します。加えて、案件ごとの利益変動が大きいため、経営の安定性が損なわれます。 - 次の案件への遅れ
大型案件の終了後、新たな案件にスムーズに移行できないことが多く、結果として無駄な待機期間が生じます。
これらの要因が重なることで、A社は収益性が低く、不安定な経営状態に陥っていたのです。
効率的な価格帯の見極め
A社長は「どの価格帯が効率的なのか?」と問いました。私が提案したのは、「社員一人当たり物件価格」というシンプルで有効な指標を用いる方法です。この基準に基づき、以下の計算を行いました。
- 社員一人当たりの基準額を設定
基準として、一人あたり1万円を想定。社員数100名のA社の場合、基準価格は100万円です。 - 物件価格の範囲を計算
「基準価格×10」を下限、「基準価格×100」を上限とすると、適正な価格帯は1000万円から1億円になります。 - 柔軟な調整
上記の基準は絶対的なものではありません。場合によっては基準額を2万円にするなど、状況に応じた柔軟な調整が可能です。A社の場合、「一人あたり2万円」を採用し、物件価格の適正範囲を2000万円から2億円に設定しました。
A社長はこれを基に、200万円以下の案件を断り、2億円以上の案件も慎重に検討する方針を決定しました。その結果、最も効率の良い価格帯は「1000万円から2000万円」と結論づけられました。
基準を持つことの重要性
経営を安定させるためには、明確な基準を持つことが不可欠です。「社員一人当たり物件価格」は、シンプルでありながら経営判断を支える強力な指標となります。また、基準を持つことで、以下のようなメリットが得られます。
- 判断の一貫性
感覚的な判断に頼らず、データに基づいた合理的な意思決定が可能になります。 - 経営の透明性
基準が明確であれば、社内外に対して経営の透明性を高め、信頼を得ることができます。 - リスクの軽減
過剰なリスクを避け、安定的なキャッシュフローと収益性を確保できます。 - 効率の向上
適正な価格帯に集中することで、生産性と収益性のバランスを最適化できます。
経営者への提言
数字という基準は、経営における「物差し」として不可欠な存在です。A社の場合、「社員一人当たり物件価格」という指標を活用することで、不安定な経営状態を改善し、効率的な事業運営への道筋をつけることができました。このアプローチは他の企業にも応用可能であり、特に価格帯の選定に迷う場合には有効です。
経営者は、自社の状況に合った基準を設定し、それを指針として経営の安定と成長を追求する必要があります。数字に基づく判断こそが、経営を成功へと導く最も確実な方法であることを改めて強調したいと思います。
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