錠前メーカーL社は、アイデア豊富な社長のもと、加工業としては高収益を誇る企業でした。しかし、従来の下請け業務に留まる現状に不満を抱き、自社ブランドでの事業展開を目指していました。その第一歩として、自転車盗難防止用のワイヤー式錠前を開発し、販売戦略についての相談を持ちかけてきました。
この商品は確かに可能性を秘めたものでしたが、私は商品が「売れる」ことと、それが「事業として成功する」ことは別問題であることを伝えました。事業の成功には、販売チャンネルの適合性や、複数の商品ラインナップの整備など、長期的視点での戦略が必要だからです。
大問屋との提携の危険性
L社長は既に大手商社B社に商品を持ち込み、「総発売元の権利を譲ってほしい」という提案を受けていました。一見すると魅力的な話に思えますが、私はそのリスクについて以下のように説明しました:
- 大問屋の実態
B社のような大企業は、数百から数千種類もの商品を扱っており、個々の商品に対する細やかな販売促進活動を行う余裕はありません。実際、多くの場合、大問屋は商品の注文を受け付け、カタログに掲載するだけの「集配所」に過ぎません。 - 販売促進の欠如
大規模な問屋であっても、主力商品以外への注力は乏しく、メーカーの商品が積極的に販売される保証はありません。商品が販売網に載るだけでは十分ではなく、実際に売上を伸ばすための努力はメーカー自身に委ねられるのが現実です。 - 流通段階の増加
大問屋との取引では流通段階が多くなり、その分、全体のマージンが膨らみます。この結果、メーカーや問屋の利益率が圧迫され、取引のモチベーションを低下させる要因となります。
小規模問屋との取引の優位性
大問屋に対する過剰な期待を修正し、小回りの利く小規模問屋との取引を提案しました。小規模問屋は、迅速な対応と柔軟なサポートが可能であり、特定地域での販売促進に適しているからです。
L社長は私の提案に基づき、いくつかの自転車店や問屋を訪問した結果、次のように述べました:
- 大問屋B社は「注文を取るだけ」で、納期が長く商売にならない。
- 小規模問屋は電話一本で迅速に対応し、小回りが利くため実用的だ。
この実体験を通じ、L社長は小規模問屋との取引の重要性を理解し、柔軟な販売戦略を採用する決断を下しました。
大問屋取引の教訓:別事例の分析
別の事例として、カメラ部品メーカーの社長は、大手問屋との取引が抱える問題を次のように語っています:
- 大問屋には、商品を売る時間も意欲もなく、販売促進は結局メーカー自身の責任に帰する。
- 大問屋との取引は形式的な関係に留め、販売戦略を自社主導で進める方が成果が出る。
このような事例から、大問屋との取引が企業にとって必ずしも有利ではない現実が浮き彫りになりました。
地域特化と柔軟性の重要性
さらに、大問屋を特約店とした場合、地域戦略における問題が頻発します。例えば、地元の有力特約店と大手特約店の地域営業所の間でトラブルが発生し、その解決にメーカーの多大な労力が費やされるケースがあります。このような問題は、特に占有率の高い地域で頻発し、販売促進活動を大きく制約します。
多くの企業が「大きな業者が大量に売ってくれる」という幻想を抱きがちですが、実際にはその選択が長期的な戦略において障害となることが多いのです。
特約店選定の戦略的アプローチ
販売戦略の成功には、以下の要素を考慮した特約店選定が不可欠です:
- 市場規模と競合他社の分析
自社商品が競争力を持てる市場を特定し、適切な地域戦略を設計します。 - 問屋の規模と対応力のバランス
小回りの利く問屋を選びつつ、流通網が十分に整備されているかを確認します。 - 質を重視した選定
数を追うのではなく、戦略に合致したパートナーを慎重に選びます。
結論
大問屋との取引は、一見すると魅力的に見えるものの、その実態は多くのリスクを伴います。「大きな問屋に任せれば安心」という固定観念を捨て、販売戦略の主導権をメーカー自身が握ることが、持続的な成長の鍵となります。
次に検討すべきは、どの程度の規模の問屋が、自社の販売戦略に最適であるかという具体的な課題です。この点についても、より詳細な分析を進める必要があるでしょう。
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