問屋を動機づける:顧客志向が生む信頼と成功の循環
L社は、石油危機の時代、深刻な在庫問題と価格競争に直面していた。低価格戦略に陥り、商品価値が失われつつある中、品質を重視した製品づくりと問屋との協力で劇的な転機を迎えた。この事例は、いかにして問屋を動機づけ、信頼を築き、売上を伸ばしていくかの実践的な教訓を示している。
背景:価格競争からの脱却
当時のL社は、メーカー価格1,800円の襖が値崩れを起こし、1,400円台にまで下落しても売れない状況だった。価格競争の煽りを受け、品質を犠牲にした「粗悪品」――俗に言う「ブスマ」――が市場に氾濫していた。
この状況を打開するには、「安ければよい」という発想から脱却し、顧客が本当に求める「フスマ」を作るしかなかった。顧客ニーズを無視した安値競争は、やがて市場からの信頼を失う原因となる。そのため、L社は品質重視の製品を2500円で販売する戦略を決断した。
同行販売の実践:問屋の協力を得る
L社長は、品質を高めた製品を販売するため、自ら問屋のセールスマンと同行し、小売店を訪問することを決意。最初、問屋の社長は「メーカーの社長が同行販売なんてするものではない」と反対したが、粘り強い説得で二日間だけの許可を得た。
その後、L社長は問屋のセールスマンを道案内役として現場に立ち、自ら商談をまとめる形で販売活動を進めた。結果、売上は急激に伸び、問屋の社長も次第に同行販売を黙認するようになった。
顧客志向の成果と問屋の反応の変化
数か月間の同行販売で、L社長は延べ345店舗を訪問。一日の最高訪問数は19店舗にも及んだ。この取り組みは、商品の受注を劇的に増やし、L社の製造キャパシティを超える需要を生み出すまでに至った。市場の反応は明確だった――「良い商品を作れば売れる」。
ところが、「蛇口作戦」を一時停止すると、売上は急成長から横ばいに転じた。この現象から、市場は継続的な努力に正直に応えることを改めて認識させられた。
その後、問屋の社長がL社長に電話をかけ、「心を入れ替え、自ら商品を売れ!」と叱咤激励する事態となった。この変化は、同行販売がもたらした信頼と期待の表れであり、問屋自身がL社の商品に可能性を見出していた証拠だった。
特売会での問屋の動き
問屋の社長がL社を訪問し、特売会でL社の襖を重点商品として取り扱う計画を提案した。問屋主導でこのような動きが生まれるのは異例であり、L社が問屋にとって欠かせない存在になったことを示している。
成功の要因と教訓
- 品質第一主義への転換
顧客のニーズを重視し、価格だけに囚われない製品づくりを徹底した。 - 社長自ら現場に立つ行動力
社長が直接販売活動に関わることで、顧客や問屋との信頼を築き、L社の姿勢を市場に示した。 - 問屋の協力を引き出す仕組み
商品の品質と実績で問屋を動機づけ、L社の商品が市場で価値を持つことを実証した。 - 市場の正直さ
良い商品を提供し続ければ売れるという基本原則が再確認された。 - 相手を動かすには信頼が鍵
自社の利益だけでなく、問屋や小売店が儲かる仕組みを構築することで、共存共栄の関係を築いた。
結論:問屋を動機づける本質
問屋を動かすためには、「相手の成功が自社の成功につながる」という視点で戦略を組み立てる必要がある。品質重視の商品を提供し、現場で直接行動することで信頼を勝ち取り、問屋の主体的な動きを引き出すことができる。
L社の成功事例は、経営における「顧客志向」と「現場主義」の重要性を教えてくれる。商品を「売ってくれる」存在ではなく、「一緒に売る」パートナーとして問屋を捉えることが、持続可能な成長への鍵となるのだ。
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