「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の言葉は、経営においても不変の真理です。
しかし、現実には多くの経営者がこの基本原則を実行に移していません。市場戦略を策定し、競争に勝つためには、競合の状況を正確に把握し、自社の立ち位置を理解することが不可欠です。
1. 競合を知らないことのリスク
情報不足の現状
多くの企業では、競合情報の収集が不十分です。
たとえば、競合企業の詳細な状況を把握するための興信所の報告書を持っていない、業界の動向を調べる資料がない、といった例が後を絶ちません。

また、収集する情報も、「自然に目や耳に入るもの」に頼る程度で、体系的に競合を調査する企業は少ないのが現状です。このような状況では、競争環境を正しく理解することはできません。
実態を見て愕然とする経営者たち
たとえば、ある間屋(中間業者)の社長が小売店を訪問した際、商品が店の隅にわずかに置かれている現状を目の当たりにし、愕然としました。また、メーカーの社長が自社のセールスマンと共に店舗を回ると、訪問するのは三流店ばかりで、自社の存在感が競争力ある店舗でほとんど感じられないことに気づいた例もあります。
これらは、競合や市場での自社の立ち位置を知らずに経営していた結果です。このような現状を「営業の責任」とするだけでは、根本的な改善にはつながりません。
2. 敵を知るための情報収集の手段
(1) 情報源の活用
- 業界刊行物・カタログ:最新の競合製品や市場動向を把握する。
- 見本市・展示会:競合企業の新製品や戦略を観察する機会を得る。
- 興信所の報告書:競合の財務状況や事業展開を調査する。ただし、情報が制限されている場合があるため、過信は禁物。
(2) 社長自身の現場視察
経営者自らが市場や競合を訪問し、現実を直接目にすることが最も効果的です。同じ状況を見ても、社員と社長では捉え方が異なります。市場や競合の動きを自身で確認することで、戦略の精度が大きく向上します。
(3) 批判的視点での情報分析
- 業界情報や興信所の報告には、提供者の意図が反映される場合があります。そのため、得られた情報を鵜呑みにせず、裏を取る努力が必要です。
- 政府機関のデータや業界統計も、最新でなかったり分類が粗い場合があります。不完全な情報を補完し、有効な形に加工することが求められます。
3. 競合状況を把握した成功事例
T社の教訓:現場視察の重要性
T社の社長が私の勧めで現場を回ったところ、小売店主から「セールスマンが電話だけで済ませ、1年間顔を出していない」と苦情を受けました。これにより、セールスマンの報告書が虚偽であり、現場の実態を反映していないことが明らかになりました。
教訓:書類や報告に頼るだけでは経営の実態を把握できません。経営者自身が現場に足を運び、情報を直接収集することが不可欠です。
現場視察の効果
社長自らが市場や競合の状況を確認することで、以下のような成果が得られます。
- 競合の強みと弱みを把握する:どの市場で競合が優位に立っているか、どこに隙があるかを明確にする。
- 自社の立ち位置を再確認する:市場における自社の存在感や課題を認識し、適切な戦略を立てる。
- 現場の課題を即時解決する:例えば、セールスマンの対応が不十分である場合、迅速に改善策を講じることが可能になる。
4. 情報収集を怠る経営のリスク
- 盲目的な経営:セールスマンや部下の報告だけに頼る経営は、実態を見誤りやすくなります。報告書に書かれた内容が現場の真実とは限りません。
- 競争環境の変化に対応できない:競合の動向を知らなければ、適切な戦略を立てることができず、結果的に競争に敗れる可能性が高まります。
5. 競合を知ることが市場戦略の第一歩
競合を知ることは、市場戦略を策定する上で最も基本的なステップです。
具体的なアクションプラン
- 市場視察のスケジュールを設定:社長自身が定期的に市場や顧客を訪問する計画を立てる。
- 競合調査の体系化:興信所、展示会、業界情報など、複数の情報源を活用し、競合の動きを定期的に分析する。
- 社内での情報共有体制を構築:収集した情報を社員と共有し、具体的な行動計画に反映させる。
結論:敵を知ることは経営の基本
競合を知らずして戦うことは、目隠しで戦場に向かうようなものです。社長が自ら市場や競合を知る努力を怠れば、正確な戦略を立てることは不可能です。
市場戦略の真価は、「敵を知り己を知る」ことから始まります。社長自身が現場に足を運び、情報を収集し、的確に分析することで、競争に勝ち抜くための確かな基盤を築けるのです。
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