C社は、過当競争の影響で赤字が続いていましたが、新商品の投入により黒字転換を果たしました。しかし、営業力の不足が依然として大きな課題となっています。
セールスマンがわずか5名しかいない状況では、一人当たりの売上高が約1億7千万円に達し、十分な販売活動が困難です。この営業の軽視は、C社長が長年掲げてきた「生産第一主義」と「コスト第一主義」の影響だと考えられます。
セールスマン増員の可能性について具体的な分析を行い、経営全体のパフォーマンス向上を目指すために増分計算を活用した結果、以下の結論に至りました。
営業力強化のための「蛇口作戦」
C社長に提案したのは、セールスマンを専任で1名増員し、「蛇口作戦」を展開することでした。蛇口作戦とは、問屋や流通の中核となるポイントを重点的に訪問し、販売促進を強化する戦略です。
この試みを「市場実験」として実行し、その効果を検証しました。増員されたセールスマンは、専任として特定の地域に注力し、他の4名が問屋訪問を補完する形で業務をカバーしました。
実験の結果、対象地域の売上はわずか3カ月で3倍に増加。もともとの売上が低かったとはいえ、専任セールスマンの配置が十分な成果を上げることを示しました。
セールスマン増員の具体的試算
市場実験の成功を受け、セールスマン2名の増員を仮定し、増分計算を用いて採算性を試算しました。その結果は次の通りです。
費用構造の確認
- セールスマン一人当たりの年間人件費:200万円
- 一人当たりの販売費(自動車費用含む):200万円
- 合計:400万円 × 2名 = 800万円
売上増加に伴う付加価値の試算
- 増分費用の5割増しを付加価値増加の基準とし、1,200万円と設定。
- 必要な売上高を試算すると、3,600万円(付加価値率33%を基に算出)。
試算結果
増員による費用を上回る付加価値の増加が確認され、経常利益率は4.3%に向上。一方、セールスマン一人当たりの売上や利益は低下しましたが、全体の利益と成長が明確に改善する結果となりました。
社長の誤解と増員の現実性
C社長は、セールスマン一人当たりで高い売上を達成することが前提だと考えていましたが、試算の結果、1,800万円(年間)という控えめな売上増加で十分に採算が取れることが判明しました。この数字は月間でわずか150万円の売上増加を意味し、現実的な目標と言えます。
社長に売上実現可能性を尋ねたところ、「最悪でもその2倍は達成できる」という自信ある回答が得られました。これにより、増員が十分にリスクの低い投資であることが確認されました。
中小企業が直面する営業力不足の課題
多くの中小企業は、C社と同様に営業力の不足が原因で成長のチャンスを逃しています。
セールスマンを増員し、戦略的な販売活動を展開することで、業績向上の可能性は大きく広がります。特に、セールスマンが人件費の3倍に相当する付加価値を生み出せれば、それは確実に利益を増加させる健全な投資と言えるでしょう。
セールスマン増員の経営的意義
製造部門や管理部門の増員は、固定費を増大させるため慎重な判断が求められます。一方、販売部門への投資は、低リスクで高い効果をもたらす可能性があります。
それにも関わらず、多くの中小企業は営業部門への投資を軽視する傾向があり、結果として経営機会を逃しています。
セールスマンの増員によるリスクは極めて低く、業績向上の可能性は非常に高いといえます。企業経営において、局所的な指標ではなく全体を俯瞰する視点で意思決定を行うことが重要です。C社の例からも、増分計算を活用して全体的な業績改善を目指す経営判断の重要性が明確に示されています。
結論
セールスマンの増員は、営業力強化と業績向上を目指す中小企業にとって極めて有効な施策です。C社の市場実験が示す通り、戦略的な増員は高い収益改善効果をもたらします。経営資源の配分を最適化し、長期的な成長戦略を描くために、販売部門への積極的な投資を検討すべきです。
企業経営の本質は、全体のパフォーマンスをいかに向上させるかにあります。そのためには、セールスマン一人当たりの指標にとらわれるのではなく、会社全体の利益増大を目指した柔軟な判断が求められます。この視点を持つことで、持続可能な成長を実現する経営の道が開けるのです。
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